充満する軽やかなエネルギー。 Cy Twombly展

 アメリカ抽象表現主義の流れをくむ画家、サイ・トゥオンブリのデッサン展がポンピドゥ・センターで開かれている。これはサンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館が主催し、昨年開催されて好評を博した展覧会がパリに巡回して来たものだ。1953年から現在に至るまで、彼のキャリア全域を網羅する50年間の、紙を基底とする作品約80点が展示されている。これらはすべて彼自身がセレクトしたもので、未発表作品も多い。
 1928年ヴァージニア州生まれ。友人のラウシェンバーグの勧めで学んだブラックマウンテンカレッジで、抽象表現主義の第一世代、ロバート・マザウェルの指導を受ける。自動書記やコラージュを試み、文学、音楽、絵画の複合的連合を実験するマザウェルから、トゥオンブリは方向性を見い出したといえよう。
 1950年代初期、彼は染みだらけの画面に引っ掻いたような線で落書きのような線描画を描き始める。無意識に現れたような形、文字、性器のような形などが互いに重なり、かすれ、浮遊する。自発的な線の運動が不意にある形として出現するかのようだ。
 1957年に始まるイタリアの生活は、それ以降の作品に影響をもたらした。地中海の風景や古代神話、開けっ広げの情動や欲望。これらのイメージを意味と感覚の狭間にあるような線と形で画面に表出させ、自分自身の記憶と、何千年も続く過去の記憶を溶け合わせた。1970年代にロラン・バルトは、「時と、時の震えを視覚化する」と彼の作品を賞賛している。
 白やグレーを基調とする比較的限られた色遣いは、1980年代に大きく変化した。それは特に花のモチーフで強調されている。強烈な色で激しく画面を飽和させるバラやダリアには生命と同時に崩壊のイメージが含まれている。
 全作品に通じるのは、世界に充満するエネルギーだ。彼はそれを感じ、軽やかに放出している。そこには様式や理論とは別次元の精神性がある。芸術は行方を見失ってしまったと途方にくれるのはやめよう。サイ・トゥオンブリの作品に心を動かされる瞬間、人々がなぜ芸術を必要とするのかがわかりかけるのだ。(仙)

Petals of fire, 1989

*ポンピドゥ・センター(火休)3月29日迄


Une singuliere gourmandise

 少年のマネキン人形らをノスタルジックかつ妖しげな世界に演出した写真で知られ、日本にも熱狂的なファンを持つベルナール・フォコン。写真家である前に料理が大好きという彼が最近出版したベジタリアンのレシピ&写真集《Une singuliere gourmandise》抜粋の写真展が、常に食べ物をテーマにした作品を紹介するユニークなギャラリー『Food』で。
 写真は1977~96年に撮られたもので、すべてに『食』のコンセプトもしくはモチーフが見られる。点数は多くないが、マネキンたちを演出したもの、生きた少年を被写体にしたもの、景色のみと、フォコンおのおのの時代を網羅した写真が見られる。フォコンの写真はtirage au charbonと呼ばれる、現在では稀なプリント法で焼きつけられ、深い色味に独特な粒子が特徴だ。全体を通して感じられるのは、柔らかく暖かく乾いたオレンジの光やテラコッタの床の冷たい感触。実際に撮影地にもなっている、彼が生まれ育った南仏アプトの色が強く感じられる。
 ところで、モデルとなった戦前スタイルのアンティーク・マネキン人形83体は、89年以降フォコンが写真に撮ることはなく、現在日本でコレクションに収められている。しかしながらここ数年の自然風景を中心とした彼の写真にも、変わらずの演出と繊細さで幻想的に美しいフォコンの世界は続いている。(久)

*Galerie Food : 58 rue Charlot 3e
01 42 72 68 97 2月15日迄(日月休)
11h-13h/14h-19h/土14h-19h 


●Philip-Lorca diCORCIA(1953-)
ドキュメンタリーとフィクションの狭間で、現代アメリカ社会や人生の本質を見せつける写真。〈Heads〉〈A Storybook Life〉など5つのシリーズ。3/15迄
Centre national de la photographie:
11 rue Berryer 8e (火休)
●Lynn DAVIS (1944-)

世界中を駆け巡り、その地の建造物や自然を撮り続けるアメリカ人写真家。2001年に撮影された〈China〉シリーズ。
3/20迄(日月休)
Galerie Karsten Greve: 5 rue Debelleyme 3e
●Kim Tschang-Yeul(1929-)
1970年からパリに在住する韓国人画家。繰り返し現れる水滴のモチーフ。1964年から2003年にかけて制作された33点。3/7迄(月休)
Jeu de Paume: 1 place de la Concorde 8e
●Pierre BURAGLIO(1939-)
コンポジションや抽象・具象への疑問を投げかけながら制作し続けるSuport/ Surface世代の画家。デッサン、絵画の断片を再構成した作品など。リヨン美術館でも回顧展が開催中。3/20迄(日休)
Galerie Marwan Hoss: 12 rue d’Alger 1er
●〈Kelvin 40, un projet de Marc Newson〉
20代のころからインダストリアルデザインの分野で特異な才能を発揮してきたオーストラリア人マーク・ニューソン(1962-)。彼がデザインした全長8m、翼幅8mのジェット機〈Kelvin 40〉のプロトタイプを展示。5/2迄(月休)
Fondation Cartier: 261 bd Raspail 14e
●Cheri Samba(1956-)

コンゴ人シェリー・サンバの絵画。彼の社会に対する思想や批判は、そのまま絵の中で文字となって主張される。5/2迄
Fondation Cartier: 261 bd Raspail 14e(月休)
●〈Au coeur de l’Impressionnisme,
La famille Rouart〉
ドガ、マネ、モリゾー、マラルメ、ドビュッシーらと親しい交友関係にあり、自身も印象派の画家であった資産家アンリ・ルアール。彼とその家族がかつては所有し、現在は散逸してしまった絵画のコレクション。コロー、ドガ、ドラクロワ、マネ、モネ、モリゾー、ルノワールなど。2/3~6/13迄
Musee de la Vie romantique:
16 rue Chaptal 9e(月休)
●〈Loud&Clear〉
ビジュアルアート、デザイン、サウンドコンポジション、カテゴリーを越えて旬のアーティストを集める。Pipilotti Rist, Marlene Dumas, Viktor&Rolf, 坂本龍一など約30組の作品。2/5~3/7迄(月休)
Institut neerlandais: 121 rue de Lille 7e