政教分離が明確でない英国や他のEU諸国、宗教の自由を大前提とする米国も呆れるほど、フランスはイスラム女性のスカーフにこだわり、是非論が紛糾するなかでスタジ委員会は各界代表者140人を聴聞、彼らの証言を基にした報告書を12月11日、シラク大統領に提出した。 校内でのスカーフ問題に始まりイスラム系生徒のある科目の授業拒否、公営プールの男女別使用の要求、公立病院で男性医を拒否するイスラム女性の急増と、イスラムの仏社会への侵食の実態に唖然としたのか、苦肉の妥協案がならぶ。 顕示的な宗教的徴(しるし)—大きな十字架、スカーフ、ユダヤ人の帽子キパなど—と政治的徴は公立校内(大学は校内規則による)や公務員には禁止する。が、目立たないアクセサリー(十字架やファティマの手、ダヴィデの星、バッジなど)は身につけていい。チェ・ゲバラの顔入りTシャツはまだしも政治的徴は、中高校では皆無にひとしく、イスラム女子生徒のスカーフ直撃の禁止案をカムフラージュするための補足としかとれないだろう。 さらに公立病院での患者による医師・看護士の性別による選択は認めない。 企業では、安全性のためまたは応対業務社員には、社内規定で装身具・服装を規制できる。 さまざまな禁止の見返りとしてか、学校給食では豚肉に代わる代替給食を維持。 さらにカトリック祭日のほかに、イスラム教ラマダン終了の祭日とユダヤ教の贖罪大祭ヨム=キプルを公認し学校休暇とする。企業では、社員は自分の宗教の祝祭日に、他の祝日と代替で休めるというギブアンドテイクの妥協案だ。 12月17日、シラク大統領は「共和制のための闘い」と力説し、校内での宗教的徴の禁止の立法化に同意を表明。が、カトリック以外の宗教祭日をカレンダーに加えることにはさすがの大統領も「これ以上宗教的学校休暇を増やすのには反対」。実際にはイスラム、ユダヤ教の祝祭日には教師に予告し、個人的理由で休む例が一般化しているのだが。 一方、異例的にアルザス・モーゼル地方はナポレオンとカトリック教会との政教条約コンコルダート協約(1801)により、現在も公立校でカトリック、プロテスタント、ユダヤ教理が必須科目だ。今後はイスラム教理も教科に加えるかわりにそれらを随意選択科目にするという案。 スタジ委員会は、カトリックとイスラム共存のための妥協案を「開かれた宗教的中立性」とうたっている。が、校内のスカーフへのねらい撃ちとしかみられない禁止の立法化は「イスラム女子にとって烙印にひとしい」と、表現・宗教の自由を保障するはずの共和国フランスの欺瞞と矛盾にショックを受ける、フランス生まれのイスラム女性や原理主義派系団体、イスラム諸国。スカーフを被っていても公立校に通うことが仏社会への同化の一歩、それを禁止することで彼女らをますますマージナルにさせる、と批判的な教員組合も。新学期に施行予定の立法案が波風立てずに実現するかどうか。(君) |
仏在住のムスリム系女性の意見 *11/21~29日、Ifop仏世論研究所がムスリム系女性300人を対象にしたアンケート (Elle誌:03/12/15) |