Pave de boeuf au poivre
時々、無性に厚いステーキが食べたくなる。きょうは黒コショウをたっぷりまぶしてビストロ風に焼いてみよう。牛肉はランプrumsteckのところがいい。薄いとすぐに芯まで火が通ってしまって、せっかくの肉が固くなってしまう。きょうは贅沢と決めこみ、少なくとも2センチくらいの厚さに4枚切り出してもらう。1枚180グラムくらいはほしいなあ。
まず黒コショウを大さじで2、3杯、すり鉢に入れ、すりこぎの先で叩くようにして粗くつぶす。すり鉢がなかったら、黒コショウをまな板にのせ、布巾をかぶせてからワインの瓶で叩けばいいでしょう。このコショウを肉の両面に押しつけるようにしてまぶしつけ、塩をふる。
フライパンに油を大さじ1杯ほど入れ、ごく強火にかける。熱くなったら肉を置き、きれいな焼き色が付いたら、ひっくり返す。焼き加減は好みだが、ランプは脂身が少なめなので、レアsaignantがうまい。取り出して、網の上に置き、熱が逃げにくいようにアルミホイルをさっとかけておく(包んではいけない)。こうすると、熱が芯までまわり、食べるときにうまみが流れ出ないのだ。
フライパンの余分な油を捨てたら、コニャックを大さじ3杯加え、木のへらを使って肉のうまみを溶け込ませて、ぐつぐつとさせたら、火を弱火にし、生クリーム大さじ2杯とトリガラのスープ大さじ4杯を加える。よく混ぜ合わせ、全体がとろりとしてきたら、塩味をととのえる。
ステーキを各人の皿に盛り付け、このソースを上からかけましょう。ステーキは熱い方がいい、という人は、あらかじめ150度くらいに熱くしておいたオーブンで数分温めるといい。
付け合わせは、新ジャガのソテーがいちばん。たとえば、ratteと呼ばれる小さなジャガイモを皮付きのまま7分目に火を通し、丸ごとあるいは半分に割ってから、バターあるいは油で、転がすような感じでソテーします。(真)
●赤ワイン風味のソース
赤ワインをベースにしたソースもステーキによく合う。フライパンにバターをとり、みじんに切ったエシャロット2個を炒めていく。エシャロットが透き通ってきたら、コニャックをグラスに半杯加える。これを1/3になるまで煮詰めたら、赤ワインを300ccと砂糖ふたつまみを加える。さらに半分くらいになるまで煮詰めたら、トリガラのスープを250ccを加え、これも半分になるまで煮詰める。火から下ろしたら、小さく切って冷たくして置いたバター大さじ2杯分を加えてとろりとさせ、塩、コショウで味をととのえればでき上がり。お皿に、このソースを敷き、その上に焼き色がよく見えるようにステーキを置き、パセリを散らす。これで4人分です。
●コショウ poivre
コショウは、粒状あるいは粉状になって市販されている。粉状だと香りがすぐに飛んでしまうので、粒状のものを買い、調理するときに挽きながら使いたい。黒コショウpoivre noirは、完熟する前に収穫されて乾燥させたもの。辛みが強く肉料理向き。最近よく使われるようになったグリーンペッパーpoivre vertは、熟す前に摘んだもの。小瓶に入って売られていることが多い。辛さはほどほどだが香りが独特で、カモ料理などに向いている。白コショウpoivre blancは、完熟したものを収穫し殻をとったもので、魚料理やホワイトソースに向いている。poivre grisと表記されているものは、黒コショウと白コショウのミックスです。
●台所のフランス語|bifteck
ビフテキは、19世紀初めに英国から入った料理で、英語のbeef steakがbifteckというフランス語になった。ステーキとして使われる肉は、まずフィレ肉filet、柔らかさという点ではいちばん。これを直径6センチから8センチ くらいに切り出して脂身で巻いたものはtournedosと呼ばれる。外ロースfaux-filetはそのフィレの上方にある肉で、柔らかさでは負けるが、味はいい。脂っこいステーキが好きな人はリブロースentrecôte。ふつう肉屋さんでステーキを頼むと、もも肉trancheから切り出してくれる。上部の腹部肉bavetteや横隔膜の肉ongletは、柔らかくはないが滋味に富み、ファンが多い。焼き加減は、絶対にbleuかsaignant。エシャロットソースがよく合う。
●bleu, saignant…
フランスでも、レストランでステーキを頼むと、”Comment la cuisson? 焼き加減は?” と聞かれる。レアならsaignantだが、フランス人は、saignantよりも生焼けのものを好む人も多く、そんな時はbleuとなる。ミディアムならa point。ウェルダンを頼むフランス人は、皆無といっていいくらいだが、それでもという人はbien cuitと頼みましょう。