ヴァリー・エキスポート。オーストリア出身、1940年生まれ。おそらく映像作家でフェミニズムの流れのもっともラディカルな一人だろう。
もちろん、このアーティスト・ネームはオーストリアのタバコの名前からもじったものだ。1966年頃から活動を開始し、ウィーンのアクション・アーティストたちと共同作業をするが、彼らの男権主義がエキスポートの仕事と相容れないことをすぐに悟る。エキスポートは、男の伝統としての絵画ではない新たな地平から表現を獲得するために、新しい表現メディアを使い始めた。写真、ビデオなどを、フェミニストとしての戦略的な武器として用い、女性のイメージと今日の消費社会、自分の身体、性そして自らのアイデンティティーとの関係を自ら問うことになった。それは、女性が、社会のなかではイメージとしてしか評価、認識されないことへの鋭い批判である。
60年代後半に、多くのラディカルな街頭アクションを保守的なウィーンの街中で行なう。それをビデオ映像として記録している。背広を着た男を犬のようにはわせて、手綱をつけて道路を横断したり、自分の胸にミニ劇場ボックスをつけて、道行く男に、その劇場の内部に手探りで手だけで入ってもらう。そこには彼女の乳房がある。その触覚に男たちがどのように反応するのかがフィルムに記録されるのだ。あるいはまた、自らの身体を対象にした写真を撮る。もっとも急進的な攻撃性を持つものは、例えば、『アクション・パンツ:生殖的パニック』と題された写真は、性器の部分を切り抜いたジーンズを自分ではき、機関銃を構えたものだ。また他のインスタレーションでは、全裸で手足を縛られた自分の写真が床に投げ出され、それを3つのビデオが取り巻き、ビデオでは犬が盛んに吠えている。太ももにガーターを入れ墨して描いた自分のトルソの写真は『ボディー・サイン・アクション』とタイトルされている。また『スマート・エキスポート』は自分の名前が書かれたオーストリア産の流行のタバコのパッケージを突き出し、自らくわえタバコ。当時の時代風潮やウィーンの街の雰囲気を考慮すれば、これらはみな、女性やセックスのオブジェ化に対する男たちへの激しい意義申し立てであったことはまちがいない。そしておそらく、保守化しつつある現在においてはなおさら、その威力を発揮しているのではあるまいか。
自分の身体をうまく使いながら批判的イメージを創り出すエキスポートのアプローチは、シンディ・シャーマンが80年代に行なったフェミニスト的批判をすでに先行していたのだ。80年代以降は、都市や自然の景観と身体の融合/離反を幾何学的なヴィジョンに求めたり、イメージの鏡像作用や動きの二重性やずれを映画で追求したりしている。(kolin)
*Centre national de la photographie :
11 rue Berryer 8e
12月21日まで(火休)
12h~19h(月は21hまで)
バスで巡る現代アート。
パリでは選択肢が無数にあって、展覧会を選ぶのがむずかしい。だが毎月第3日曜日、評価が高い旬の現代アートのエキスポを選りすぐって巡るバスがある。美術館やギャラリーはもちろん、教会、病院、個人のアトリエなど、アクセスしにくい場所や、情報通以外は知らないであろう展覧会も、積極的にコースに組み込まれる。そのうえ、詳しい説明を聞くことができるので、コンセプトが重要な位置を占める現代アート鑑賞には特に助かる。
コースは毎回変更されるが、9月は、ラップ通りのギャルリー・アラン・ギュタルク→ソルボンヌのチャペル→ザッキン美術館→イヴリーのアートセンター→ノワジー・ル・セックのラ・ギャルリー。
参加者はアート関係者を筆頭に、スタイリスト、精神分析医、有閑マダム、学生、会社社長などさまざま。みんなが気さくに芸術談義に花を咲かせる雰囲気も魅力。そして何より、主催者のエリックさんを始め、アートを愛するスタッフの情熱が肌で感じられるのがいい。またパリだけでなく、毎月第2日曜日がブリュッセル、最終日曜日がロンドンを巡るツアーとなっている。また時期によってはベルリンやベニスなど他都市も加わる。現代アート通の上級者にも、芸術を通して新しい観光を体験したい人にも、双方におすすめだ。(瑞)
*Art process : www.art-process.com
参加費は50euros。昼食代別。予約は1カ月前に入れたい。01.4700.9085 /
info@art-process.com
●Francisco SOBRINO (1932-)
スペイン人作家。60年代キネティック・アートの先駆者の一人で “光の建築家” ともいわれる。10/31迄(13h-19h日月休)
Galerie Lelie Mordoch:50 rue Mazarine 6e
●Gustave MOREAU (1826 – 98)
マティスやルオーの師であったモローの素描やデッサンだけでも約1万3千点。モロー美術館創立100周年に際し『神話と幻想』展。デッサン、水彩約100点。11/9迄
Musee de la vie romantique:
16 rue Chaptal 9e (月休)
●古代彫刻コレクション
スイス人バルイエ -ミュエレール氏のコレクションから、紀元前4世紀以降の中東・東欧・アフリカ・東洋の青銅彫刻や宗教的儀式のマスク約70点。11/29迄
Mona Bismarck Foundation:
34 av. de New York 16e (日月祝休)
●Inge MORATH (1924 – 2002)
カルチエ -ブレッソンの助手として50年代からスペイン、ロシア、中国他を取材、現地人の日常を撮影。その他多くの芸術家たちのポートレート写真。11/29迄
カルチエ -ブレッソン財団: 2 impasse
Lebouis 14e (13h-18h30 日月休)
●《アメリカの首都パリ》
1918~39年、2大戦間にフランスとの関係を深めたマン・レイを始め米前衛作家らの作品約150点。11/30迄
ジヴェルニー美術館(月休/11月: 木 – 日)
●Jean COCTEAU (1889-1963) 回顧展
1910~60年代の異才な詩人・作家・戯曲家・監督・素描家として世紀の寵児と評されたコクトー。デッサン335点、写真300点、オブジェ、彫刻、自筆原稿、映画、ピカソ他の作品でコクトーの創造の世界をカレイドスコープ的に展開。
1/5迄 ポンピドゥ・センター(火休)
●Jean DUBUFFET (1901- 86)
1945 – 58年の紙に描いた作品。11/29迄 Galerie Karsten Greve :
5 rue Debelleyme 3e
●第7回リヨン・ビエンナーレ 2003
ルネ・クレールの作品『明日を知った男』(44)からとり、主題は”C’est arrive demain”。草間弥生ら欧米日作家55人のインスタレーションが中心。1/4迄
リヨン現代美術館/ヴィラールバンヌ現代美術インスティテュート/リヨン美術館/Le Rectangle/Sucriere(製糖工場)5会場。
●《TANAGRA》
タナグラ人形とは紀元前3世紀ヘレニズム期のテラコッタ人寓で、19世紀にギリシアの町タナグラで出土。240点。
1/15迄 ルーヴル美術館(火休)
●《タヒチのゴーギャン 》
マルキーズ島で没したゴーギャン(1848-1903)の死後100周年。タヒチで制作した『我々はどこから来たのか、我々は何か、どこへ行くのか』他約200点。
10/3~1/19迄 グランパレ(火休)