今夏の猛暑のさなか、8月8、9、10日の3日間、南フランスはラルザック高原で25万人という膨大な数の人々を集めて、世界貿易機関(WTO)反対集会が開かれた。 ラルザックは、1973年から軍事訓練場拡張の反対運動が本格化し、10年の闘いの後に勝利した農民による運動で名高い高原地帯だ。たかだか103軒の農民たちの運動が全国から広範囲の支援を得て闘い抜き、さまざまな運動の交差点となった。反植民地運動、非暴力運動、有機農業運動、反核運動などなど。そしてラルザック農民闘士ジョゼ・ボヴェが農民同盟とともに、同地ミヨー市にあるマグドナルド店を解体した事件は記憶に新しい。そして、この事件をきっかけに、ローカル運動の記憶と経験が今日のグローバリゼーションの視点と結ばれたのだ。 今年はラルザックの闘い30周年でもある。また狂牛病、遺伝子組み換え作物など昨今の悪食への闘い、中小農業の崩壊、そして春にあった年金制度、教育、芸能関係の臨時被雇用者(intermittents)の失業保険制度の問題など国内の社会運動の不満が重なった。フランスの農民運動を代表するラルザックへ来ることは、象徴的な意味でも充分理由があるのである。 そもそもWTOが行なっている貿易の自由化推進とは何を意味するのだろうか。 今日のグローバリゼーションは、あらゆる次元で展開されているが、重大問題はまぎれもなく経済だ。そして世界経済に決定的な影響を与えているのは、世界銀行、IMF、経済開発機構 (OECD)に続いて、関税貿易一般協定(GATT)を発展的に解消して1995年に創設されたWTOだ。つまりWTOの任務は、国際貿易の完全自由化を達成することだ。 「自由化」というと聞こえがいいが、じつは弱肉強食である。この原理のなかではすべてが商品となる。人類の共通財産ともいえる天然資源や水、また生物の組み換え遺伝子までもが特許として私的企業の商品となる。そして自由貿易の障害となるものはすべて取り除こうとしているのだ。公共サービスさえも障害だ。それゆえ、この原理に反対し、もう一つの世界の可能性を夢見るオルター世界主義者の流れがもう一つのグローバリゼーションとして顕著に現れてきた。 今日、北側で行われている規制緩和、民営化はWTOの流れである。今回のメキシコにおけるカンクン会議開幕時に、韓国農民闘争団の闘士李京海(イ・ギョンヘ)氏は会場前で抗議の自殺をした。 農業の自由化、医薬品の自由化、サービス業務一般の自由化(GATS)を目ざした今会議は、必須医療品と特許権の問題で、不合理な合意に達してしまった。南側はエイズの薬を得る代わりに、特許料を払い他国にはコピー薬を売れないことになる。だが結局、ブラジル、ヴェネズエラ、アフリカやカリブなど南側諸国の強い反対にあって、共同宣言を出せずに閉幕を余儀なくされた。なかでもGATSは1998年に断念された多国間投資協定(MAI)の蘇りだが、カンクン会議の失敗は、北側の自由化路線が世界の抵抗なしには進めないことを明らかにしている。またNGOや反対派は会議を失敗に追い込むだけの力を発揮したのである。(プチ・ポア) |
閉会式で熱狂的拍手を送る参加者たち。(写真:筆者)
2001年度世界の農産物主要輸出入国 |