Tagine d’agneau aux pruneaux
モロッコ産の円錐形の土鍋、そしてこの土鍋を使った料理はタジンと呼ばれる。少量の液体で蒸し煮状態で調理される野菜や肉の、それぞれの持ち味が生かされたおいしさは、ちょっと類がない。鍋だってアラブ食料品店で買えば、それほど高くないし、モロッコのお国料理をマスターしてみることにしよう。今回は、タジンの中でも代表的な、プリュノー(干しプラム)風味の子羊肉です。
子羊の頸肉colletを4切れ買ってくる。プリュノー20個はふっくらするように薄い紅茶に1時間ほど漬けておく。野菜は旬の野菜だったら好きなものを加えればいいのだが、きょうは葉付きの小さな新ニンジンを1把買ってきた。これを8本、皮をむいておく。タマネギ中2個は薄切り。コリアンダーの葉一つかみ、ショウガ親指大、ニンニク2片はみじん切り。
タジン鍋を中火にかける。オリーブ油をたっぷりとり、塩、コショウしておいた子羊肉を加え、両面にきれいな焼き色がついたら、タマネギ、ニンニク、ショウガを混ぜ入れる。タマネギに軽く焼き色がついてきたら、ニンジン、プリュノー、コリアンダーの葉を加える。シナモンとクミンパウダーをそれぞれ小さじ1杯、あったらサフランも加えたい。ハチミツ小さじ2杯を溶かしこんでおいたカップ1杯の水も加え、全体を混ぜ合わせてから、熱くなっているオーブン(目盛り180度)へ。30分たったところでeau de fleur d’oranger(右欄参照)を振りかけて、もう一度全体を混ぜ合わせ、オーブンに戻してさらに10分。肉も野菜もちょうどよく焼き上がるだろう。
やけどしないように鍋ごと食卓に出し、フタを開けると、素晴らしい香りが広がる。煎りゴマを最後に振りかければ文句なし。絶妙のソースもパンに浸しながら味わい尽くしたい。ホカホカのクスクス粒を添えるのも悪くないなあ。ワインはモロッコ産のグリ(ロゼ)がいちばんだ。
タジン鍋がない人はココットのような厚鍋で作ればいい。モロッコ人だってココットを使うことが多いのだ。(真)
● 台所の本|Anissa Helou 《Maroc street cafe》
中近東、マグレブ諸国の料理に強いジャーナリスト、アニサ・ヘルーが、モロッコ各地をまわりながら書きためてきたレシピが70近く集められている。タジンだけでも8種類。マラケッシュ近くの小さな村で味わったという〈トリとサツマイモのタジン〉はぜひ作ってみたい。ほかにも、ヒヨコ豆と羊肉のスープ、蒸しナスのサラダ、ウズラとアーモンドの包み揚げ、モロッコ風天ぷら、干しぶどう入りのアナゴ、肉団子、7種の野菜入りクスクス、トマト風味のオクラ、シナモン風味のオレンジのサラダ…。
ジェレミー・ホプリーの美しい写真から、モロッコの香りが溢れてくる。(真)
●タジン tagine
モロッコ産の円錐形の土鍋 〈タジン〉は、その形に秘訣があるのか、水蒸気が鍋の中に充満し、食材の持ち味をこわすことなく蒸し煮ができる。水やダシなどを少量加えるが、できるだけ控えめにするのがコツだ。大きさは、1人前用の小さなものから、直径30センチ以上の6~8人用のものまで数種類ある。家庭用には、なるべく大きい鍋の方が便利だけれど、オーブンに入るかどうかきちんと計って買いましょう。オリエンタル風な装飾が描かれているものは値が張るので、装飾なしの土色のもので十分。4人用で20€前後。
代表的なタジンには〈子羊とジャガイモ、グリンピース〉、〈子羊とナス〉、〈トリとオリーブ、レモンのコンフィ入り〉、〈トリとニンジン〉、〈挽き肉と玉子〉などなど。モロッコ料理なので、あまり辛くせず、プリュノーや干しブドウ、干しアプリコットなどを使って甘みをきかせることが大切だ。肉なしの春野菜タジンとか、これからシーズンのアスパラ入りタジンも素晴らしい。
● collet
子牛と羊の頭と肩の間にある頸肉のこと。適度に脂が混じった肉で、煮込みにすると柔らかくておいしいところだ。羊の場合、塊のまま、あるいは切り身の形で売られている。牛の頸肉はcollierと呼ばれる。
● eau de fleur d’oranger
オレンジの花を二日間ほど乾燥させてから蒸留し、エッセンスを取り出したもので、マグレブ料理の香りに欠かせない。薄められて中くらいの瓶入りになって市販されている。フルーツジュースやフルーツサラダに加えたり、お菓子に使ったりする。タジンにも独特の香りをつけてくれる。冷蔵庫で保存するが、なるべく早めに使い切りたい。2€前後。