百周年を来年度に控え、今年「は」(審査員代表によると)小説というジャンルや売上げなど「には」とらわれず、一つのエクリチュールと一人の作家が賞されたとされる今年度のゴンクール賞。今年「も」、大手出版社の間での売上げ目当てでしかないという扱われ方はもちろん、討論を巻き起こしたゴンクール賞。討論の焦点は、この作品が、小説ではないこと、さらに、すでに数多くの作品を出しているキニャールが最後の作品集と定義するものの第一巻であり、三巻が同時に発行されたが、以降どのくらい続くかは未定ということもある。
小説でもなければ、エッセイともいえない、短い章と文章からなるこの作品。哲学的アフォリズムや、古代ローマから中近東をへて谷崎の日本、十字軍からペリーの黒船、ナチスをへて9・11事件へと、文学・歴史的引用と喚起に溢れるこの作品。一言でいえば、この作品は、21世紀のモンテーニュの『エッセイ』。
断続的、断片的にしか文章化されない思考、その日本語訳である普遍的というよりも、コスモス、宇宙を喚起するという意味でuniverselな思考、そして過去、過ぎ去ったものを考慮に入れながらも、moderneというよりcontemporainという意味で、極めて現代的な思考。そしてこうして特徴づけられる思考、というより思考の流れ、に重なるのは、一貫する詩的なイメージ:失われた王国と徘徊する影、あるいは失われた王国の徘徊する影。この王国、これらの影が何であるかは本書を読めば明らかであり、ここでは言及を避けよう。それに本書は、徘徊する影とともに、この失われた王国へ、往事、深淵へと僕らを誘うのだから。(樫)
Grasset & Fasquelle, 2002, 192 p., 17€
Sur le jadis, Dernier royaume II, 320 p., 19€
Abimes, Dernier royaume III, 364 p., 18€
●2002年度その他の主な文学賞受賞作
フェミナ賞:《Les Adieux a la reine》Chantal Thomas
ルノドー賞:《Assam》Gerard de Cortanze
メディシス賞:《Pas un jour》Anne F. Garreta