35時間法はいまから5年前、97年に前ジョスパン内閣のオブリー社会・雇用相が、失業対策の特効薬として長い陣痛のはてに産み落とした社会政策だ。 が、2004年からは20人以下の小企業にも適用されるはずのこの時短法への経営者たちの憤まんはたまるいっぽう。そこでラファラン内閣のフィヨン社会相は待ってましたとばかり、35時間制を骨抜きにする改革案を10月15日、国民議会第一読会で採択させた。影薄の野党左派議員席からは無念の虫の声、大統領与党連合(UMP) 独演の討議は、35時間制の短命さを物語っていた。 現在、就労人口1500万人のうち880万人 (53%)がすでに35時間制になっている。大企業になればなるほどその浸透率は高く、2001年末には200人以上の企業の90%が時短したのに対し中企業(21~49人)は40%、20人以下の小企業は10%にすぎない。が、97年から2001年末までに時短法により約30万人が新採用されたといわれる。 改革案はまず、週35時間ではなく年1600時間とする。好景気のときは週39時間でも45時間でも働かせることもでき、不況時には35時間以下に、または代休にふりかえられ、経営者、社員ともフレックス・タイム制になるわけだ。 またオブリー法は残業時間を年130時間まで有効としたが、改革案では180時間まで許される。さらに35時間から39時間までの残業割増は、20人以下の企業では+10%(給与の1%増)、それ以上の企業は+25%(給与の2.5%増)と、新社員を採用するよりいままでどおり39時間働いてもらうほうが安くつくことになる。 オブリー法では、勤務時間が一定でない管理職は、最長13時間まで働け、代わりに年最高22日間の代償休暇を与えた。その分を累積できバカンス(5週間)以外に1カ月以上の休暇をとれる。改革案では、代償休暇は5年間有効とし、賃金に換算することもできる。それを歓迎する社員も多く、管理職が多いほど35時間法はなきにひとしくなるわけだ。 もう一つは、オブリー法は35時間制を広めるため、増員した会社には社会保障費の軽減や補助金を出すが、改革案はそれを廃止している。したがって企業は35時間制にふみきる理由もなくなるわけである。 35時間法を骨抜きにする改革案と同時に提出されたのが、最低賃金(SMIC)調整法案だ。現行法は35時間制から39時間制まで5段階を設定した。これを単一化するため、改革案は35時間制のSMICを 3年間で11.4%上げ、2005年までに全種のSMICを同一額にするというもの。が、企業にはそれだけ人件費がかさむばかりか、上限のSMICは3年間凍結されるので、このグループがはたして黙っているかどうか。 公務員も含めすでに就労人口の過半数が35時間制ライフに入っているのだが、フィヨン社会相による改革案はそれにストップをかけるものだ。すでに35時間制になった者と、39時間制をつづける者とが隣り合わせることになるわけで、社会の二重構造化が進みそうだ。(君) |
35時間制人口 ( 2002年1月現在 ) |