秘伝!キムチの作り方
日本で世界中の辛い料理が気軽に食べられるようになったのは、いつ頃からだったろう。ほんの30年ほど前までは、辛い料理といえば韓国・朝鮮料理。「辛い」の代名詞はズバリ「キムチ」だった。確かあの頃の日本人は辛いのが苦手で、辛い(カラい)は辛い(ツラい)に等しくて…。そのうえ日本と韓国・朝鮮の関係も、とってもとってもカラかった。そして今…。「カラい」は「快感」になり、キムチの苦手な日本人を探し出すのはセーヌの流れを変えるほど難しい。時代は変わった!サッカーのワールドカップ日韓協同開催の成功を記念して、というわけではないけれど、キムチファンの熱い要望にお答えし、オモニ*の数だけレシピがあるというおふくろ料理のエトワール、「キムチ」の作り方を、在日50年、東京在住のオモニに教わった。
OVNI:こんにちは。今日はキムチの作り方を教わりにパリからやって来ました。よろしくお願いします。
オモニ:パリ?遠いとこから来たんだねえ。教えるっていってもね、オモニは入れるものも量も、つくるたびに違うんだよ。どの材料を何グラム入れるかなんて、自分でもわかんない。それでもいいの?じゃあ、今日はちょうどつくろうと思ってたところだから、横で見ていきなさいよ。
まずはタレをつくります。キムチっていっても白菜、大根、キュウリ、いろいろあるでしょ。でもタレは同じ。つくるのが大変だから、一度にまとめてつくって冷凍しておくといいんだよ。一度につくる量は、大体特大のサラダボールに満杯かそれ以上。一人暮らしには多すぎるだろうね。
最初は昆布でだしをとります。水に昆布を浸して火にかけて、沸騰しそうになったら火を止めて、そのまま放っておくの。タレの量にもよるけどね、そんなにたくさんはいりません。ニンニク2玉(2片じゃないよ)と、ポキっと10センチぐらいに折ったショウガ、中くらいの大きさのリンゴ1個を、皮を剥き、適当な大きさに切ってミキサーの中に入れます。今日は干し柿と、ナツメもある。これも1個ずつ種を抜いて一緒に入れちゃおう。季節によっては梨や生柿も入れるんだよ。そうそう、桜海老の干したのもあったねえ。全部入れちゃえ。ここに昆布のだしを入れて一緒につぶします。昔はねえ(ミキサースイッチON)、木の棒で叩いたり、おろし金でおろしたりしたもんだけど、今は便利になったよねえ。もういいかな。そんなに細かくなくてもいいんだよ。つぶれればいいんだからね。(スイッチOFF)
ミキサーの中身を大きなボールに移して、塩辛を入れます。包丁で叩いて細かくしてね。今日はイカの塩辛、アミの塩辛、牡蠣の塩辛、チャンジャ(魚のあらの塩辛)。大サジたっぷり何杯分も入れる。オモニはね、牡蠣の塩辛は必ず入れるんだよ。ほかにもカツオの塩辛なんかも入れるとおいしいね。えっ、フランスに塩辛ないの?じゃ自分でつくったら?このイカと牡蠣の塩辛も、オモニがつくったんだよ。簡単簡単。
イカは活きのいいのを買ってきて、半分に切って、包丁で中身を出す。そこに塩をふってざるに上げて、一晩置いとくの。ワタの活きがよかったら、それも一緒にね。塩はね、ちょっとじゃだめだよ。もう食べられないんじゃないかってぐらい、がばっと入れるの。そうしないと塩辛にならないでしょ。へたすると腐っちゃうからね。朝起きたら、乾いた布巾かキッチンペーパーできれいに拭く。小さく切ったら出来上がり。瓶に入れておく。そこに柚子の皮を少し入れてもおい
しいよ。牡蠣はねえ、まず砂を洗う。ざるに上げて水が切れたなと思ったら、塩をたっぷりかけて瓶に入れておく。これで出来上がり。
ところでキムチのタレだけど、今度はね、2、3センチに切ったニラと、大根の千切りをいっぱい入れちゃう。それから、少しすりつぶした白い炒りゴマを大サジで2、3杯。山椒の粉があればちょこっと入れる。なければコショウでいいよ。果物やショウガ、山椒やコショウはね、塩辛の生臭いのを消すんだよ。最後に唐辛子の粉を入れる。もう、こんなに入れてもいいのかっていうくらい入れるの。スプーンで何杯かな、これぐらいかな、なんていうんじゃ全然ダメ。たくさん入れないと色が出ないからね。ほらほら、もっともっと。韓国の唐辛子はあまり辛くないから心配ご無用。古いのはまずいから入れちゃダメだよ。新しいのはね、味や香りが全然違っておいしいんだよ。それからね、唐辛子だけは必ず韓国のお店で買ってちょうだいよ。世界中に唐辛子はあるだろうけど、キムチにはやっぱり向こうのじゃないとね。ほら、タレが出来たよ。
じゃあ、白菜のキムチをつくりましょ。白菜は前の晩に塩をしておくの。4分の1に縦切りにして、葉と葉の間の奥にも塩が入るようにぱっぱっと塩を振ります。茎の部分はしなるのに時間がかかるから、大きな白菜だったら少し切り込みを入れてもいいね。そして上から重しをします。漬け物石がなければ、鍋に水を入れて上に置いとけばいいんだよ。しなったら水気を抜きます。白菜が汚れていたり、塩がつきすぎた時は水でゆすいでね。それを絞る。それでタレをつけるんだよ。こう、葉っぱの間にもさっさっとつける。一番表側の葉っぱを帯にして、葉の開いた方を内側にクルっと丸めて縛っとくの。こうするとタレが流れ出ないでしょ。まとめて漬けて、入れ物に入れておいて、食べる時にはひと塊ずつ出して広げて、5センチぐらいに切って皿に盛るんだよ。
大根のキムチはね、さいころみたいに切って、塩をしてしならせてからタレを混ぜる。キュウリはね、両端を残して縦に4つ割りにして塩をする。1時間ぐらい置いてしなったら、4つ割りにした隙き間にタレを詰めて、並べて入れ物に入れとくの。食べる時に1本ずつ出して、適当な長さに切る。少し斜めに切って盛り付けるとカッコいいよ。面倒だったら最初からバラバラに切ってタレに漬けとけばいいんだよ。このタレさえあればもう、いろんなキムチが作れるからね。青菜のようなもんだったら、ちょっとタレを混ぜればあっという間に出来上がりでしょ。ご飯がいっぱい食べられる。昔はさ、こんなキムチと一緒に食べる麦ご飯がおいしかったねえ。
どう?覚えた?基本はね、ニンニクとショウガ、塩辛と、ゴマと唐辛子。あとは、リンゴね。基本だけ入れればキムチになるのよ。だけどそこを自分で工夫して、ほかのを入れればいいの。でも、砂糖は入れちゃダメだよ。白菜が柔らかくなるし、すぐ酸っぱくなるからね。とにかく何回か作って経験するとわかるの。一回失敗すると、あれは入れすぎたとか、足りなかったとか。失敗は成功の元だからね。あ、ご飯が炊けたみたいだね。漬けたばかりのキムチ、シャキッとしておいしいよ。ほら、食べなさい。タレを瓶に詰めてあげるからね、フランスに持って帰りなさいよ。はい、おみやげだよ!
(仙)
*オモニ=お母さん