数年前に撮影の仕事で、サハラ砂漠を小さなプロペラ機で数時間かけて横断する機会があった。砂漠といってもいろいろな顔があり、灌木があったり、石ころだらけだったりと変化があり、ときたま痩せ細った動物が飛行機の音に驚いてあてもなく走っている姿をみかける。曲がりくねったニジェール川が太陽の光に反射して、まるで鏡のようだ。ポッツン、しばらくしてまたポッツンと部落があり粗末な家から数人がヤリを持ってとびだし、私たちの飛行機を指さしてヤリを投げようとしている。きっと大きな鳥とでも思っているのであろう。
それにしても部落と次の部落との間が相当離れているので、互いの行き来はないのではないか。すると彼らは、ここで生まれて、ここで死んでいくのだろうか。昔のままの生活で周囲との行き来もないので比べる対象もなく、何とも思わないのだろうが、私たちにとっては退屈な一生であろう。いや数カ月、数週間もてばいい方であろう。とても我慢できる所ではなさそうだ…と思っているところへ、プロペラ機を器用に操縦しているパイロットが「ここが君たちが今日から一週間滞在する所だ。低空飛行で町 (部落?) を旋回するからよく覚えておけ」と言って高度を下げた。
今まで見てきた部落よりは少し大きいがあまり変わらない。ここではたして一週間我慢できるだろうか…、不安が全身を襲った。わたしたち「文明人」はなんとひ弱なのだろう。(パリ在、二戒堂)