2001年クリスマス。パリで新しい日本語の情報誌が生まれた。タイトルは “LE PETIT BAR A VIN~小さなワインバー~”。ワイン好きの仲間4人がつくった新聞だ。参考書の解答集のような真面目っぽいたたずまいの新聞だが、そこかしこに茶目っ気が散りばめられている。編集長の阿部弘さんに会いに行った。〈福の神〉がこの世に現れたとしたら、こんな感じではないか? と思わせる風貌(たしかに福耳です、と阿部氏)。彼のお勧めワインバーへと誘導してもらい、インタビューは乾杯から始められた! 阿部さんは東京は杉並区の、代々畳屋を営む家に生まれた。学芸大学で言語学を修め、大学院へと進み、中退して教職に就いた彼は、中・高校の国語の先生として男子校、共学、セーラー服の女子校でも教えた経験をもつ。初めて高校3年生のクラスを担任し卒業させた年、彼は30歳になった。時、西暦2000年。阿部氏はこれを区切りに渡仏。どうしてフランスへ?「ブルゴーニュのワインが好きだったから」 モンパルナスの自宅はワイン仲間から「バー・アベ」と呼ばれ〈入りびたる客〉が絶えない。各々がボトルを持ち寄り、多い晩は20種以上の利き酒になる。彼の新聞を開くとバー・アベでの話し声が聞こえてくるようだ。几帳面な〈テイスティング・ノート〉、テイスティングで学習した事柄の〈まとめ〉など、先生としての過去がちらっちらっと顔を出す。 「第3号配布が3日後なので、原稿を書き終えなくては」と、阿部氏。原稿のプリントをコピー屋へ持っていき、折って、重ねて、配布、の仕事が待っている。その割には落ち着いて飲酒にいそしむ編集長であった。(美)
|
★”LE PETIT BAR A VIN 小さなワインバー” |