ドキュメンタリーで至福の7日間。 Etats generaux du film documentaire


 ローヌ・アルプ地方の風光明媚なアルデッシュ県の懐。地図でその名前すら見つけにくい小さな村リュサスで、毎年、至福のドキュメンタリー映画祭Etats generaux du film documentaireが開催される。今年は8月19日から25日までで、期間中村の人口の5倍以上、4000人の入場者数を記録した。89年の映画祭スタート以来、主な観客層はバカンスを返上してやって来るプロデューサーなどの映画のプロ。「ドキュメンタリーを歴史的、政治的、経済的な側面から考えたい」。リュサスは開催当初から、そんな映画人たちの出会いと討論の場として機能してきた。近年は映画祭の質の高さが噂を呼び、多くの熱心な映画ファンを惹きつけ始めた。
 今年の特集の柱は、呪われた作家パゾリーニの実像に迫る企画『Pasolini aime la realite』、言葉を越え思想が映像を通しどのような形で伝達されうるかを探る試み『Filmer la pens仔』など。『Filmer…』にはあのジャック・ダリダも応援に駆けつけた。また『Voyages』のエマニュエル・フィンケルや『La sociologie est un sport de combat』のピエール・カルルなど、現在フランスを代表する作家たちが熱弁をふるう姿も見られた。期間中上映される作品は延べ170本。だが作品の本数以上に、スタッフの確かな選択眼とティーチ・インの充実さには唸らせられる。
 上映会場は、大型バスやテント小屋、夜空に星が浮かべば野外上映と、なんともビラジュワチックな心憎い演出だ。
 さて本映画祭を実行する組織Ard縦he Imageは、映画製作や作品の保存・管理の他に作家の育成にも力を注いでいる。現在、7週間でドキュメンタリー製作を初心者から学べるコース
Residence d’ecriture documentaireを用意しているので、興味のある方は挑戦してみては?(瑞)
メイン会場の前に、次の上映を待つ人たちが集まってきた。


観客との応答で熱弁をふるう
フィンケル監督。

フェスティバルに関する問い合わせ:
www.lussasdoc.com


アレックス君の推薦作
Pour montrer la violence de la guerre ,”No man’s land” choisit une voie nouvelle, interieure, presque contenue.

“No man’s land”は、戦争の暴力を描くのに、内的でほとんど抑制された新しい道を選んだ。

93年ボスニア紛争。ボスニアとセルビアの二人の兵士はどこの領土にも属さぬ最前線No Man’s Landで孤立する。「自己紹介が何の役に立つ? 次に会う時は銃の照準の後ろかもしれないのに…」。かつてコッポラが描いたものとは別種の “戦争の不条理性” を前に、兄弟であり敵である二人は立ちすくむ。
 戦争映画は時に恐怖のイメージを濫費するが、タノヴィッチ監督は血や死体や生臭い殺戮シーンをほとんど見せぬかわりに、視線や言葉の裏に隠された潜在的で悪魔的な戦争の暴力をあぶり出す。それは本作に登場する、わずかな衝撃で爆破する地雷にも似ている。(アレックス)


●Et la bas quelle heure est-il?
 パリにやって来た台湾女性の孤独と戸惑いをあなたはどう見る? オヴニー読者こそ理想の観客かもしれない傑作の登場。
 東京と見まごう台北の路上。父の喪中にあるシャオカン青年は、パリに発つ女の子に腕時計を売って以来、彼女との距離を縮めるために台北中の時計の針をフランス時間に変えてゆく。台北とパリ。時空を隔てた二人の奇妙で歪んだ日常の断片の果てに、もはや繋がるはずのない二人を繋ぐ、優しい奇跡が訪れる。
 かつてトリュフォーがJ・P・レオ扮するドワネルに自身を託したように、ツァイ ・ミンリャンも無口なシャオカンに不安定な都会を泳がせ続ける。トリュフォーが映画史に蒔いた種は、フランスよりもむしろアジアで息吹いているようだ。特別出演のレオ様をお見逃しなく。(瑞)
●chaos
 タイトルを良い意味で裏切ってくれるコリーヌ・セロー監督の『chaos』に、試写室が珍しく拍手で波打った。
 ヤクザに暴打されている売春婦マリカを偶然目にした主婦エレーヌ。彼女はマリカの状態が気にかかり、主婦業そっちのけで看病に病院通いを始める。そしていつしか彼女は一人の売春婦の中に、理不尽な境遇に抗い人生を切り開こうとする勇敢な女性の姿を発見していくのだ。
 女性監督らしいフェミニスト的視点は賛否両論だろうが(男性陣のだらしなさよ!)、マリカの潔さには誰でも気持ちよくパワーを分けてもらえるのでは。エレーヌ役カトリーヌ・フロの天性の軽みは重めのテーマを絶妙に緩和する。(瑞)