パリの木 インタヴュー
私達が普段慣れ親しんでいるパリの街路や近所の公園の木々の管理と植樹にあたっている “La Direction des Parcs,
Jardins et Espaces verts” 略してDPJEV(公園・庭園・緑地管理局)の植林課のペルティエさんにお話を伺った.… 都市と環境の問題は、政治、経済の問題だとも思いますが?
◆そうですね.でも我々の管理局は半年前(ドラノエ新パリ市長)に作られたわけではないのです.パリの街は歴史を持っています.多少政治に左右されても、今日明日すぐに木々や並木を変えるわけにはいきません.
… オスマン計画でパリは美しく大きく変わりましたが、貧民や反体制派、革命家を追い出す意味での都市計画だったのでは?
◆その影響がどのように反映しているかはわかりませんか、ヴァンセンヌ側が庶民的で、ブローニュ側がブルジョワ、スノッブという傾向は現在にも受け継がれ
ているといえます.現在のパリ緑地計画は、我々だけでなく建築家、造園師など各セクションの専門家が話し合って進められています.そういった意味で地域に
よる差別はありません.
… 街づくりに我々市民も参加できるのでしょうか?
◆チベリ前市長の時、パリ市民の様々な要求をアンケートしたところ、緑地を増やしてほしいという声がたくさんありました.公共の利益になるプロジェクトで
あれば、個人、会社、アソシエーションなどからパリ市に提案できます.あまり個人的な趣味や好みの案は通りにくいのですが.…
例えばルーヴル美術館広場やオペラ座の前になぜ木がないのか?という質問もありますが.
◆それは冒涜です!(笑)パリの街は建築です.ルーヴルは旧建築とピラミッドのハーモニー、歴史というコンセプトを表象しています.そのラインを隠し壊してしまう木は必要ないのです.木によってオペラ座の美しい建築が見えなくなってはいけないのです.
… ということは、パリの木は純粋に美的な理由で存在するということでしょうか?
◆そういうことです.でもあってよさそうなところに木がない理由に、下に電気・ガス・電話線などがじゃまして容易に舗道の形相を変えられないということがよくあります.普通、一本の木に最低10m2の土が必要なのです.
… 日本では市で指定された木があって、その木は勝手に切ったり移動してはいけないことになっていますが.
◆日本とは勝手が違うと思いますが、木が大きくなり過ぎたために、影になるから切ってくれ、という要請はあります.パリは人工的に造られた街なので、毎年
植樹、伐採、トリートメントをしなければ不都合が生じる可能性があります.木の病気をはじめとして、枝が折れたり木が倒れるのも防がなければなりません.
生活の快適さと同時に安全面も大事です.
… どんな理由で、木が病気になったり死んでしまったりするのでしょうか?
◆植林計画は人々の行動や活動のじゃまになることのないように、その場ごとに研究されますが、自動車の衝突によるショックが木の敵です.冬の路面氷結防止
に撒く塩も害のひとつだったのです.研究の結果、その塩は葉の中に蓄積されることがわかり、夏に葉を切るという処理をしました.それと、動物の尿も原因の
ひとつです.害虫ももちろん木の敵ですが、あまり薬などを使わず、あぶら虫を食べるてんとう虫を放したりしています.あと、人間や動物が表皮にキズをつ
け、そこから菌などが入り込んでしまうことなどです.大気汚染による被害は意外と少ないようです.
… プロジェクトの結果は、気長に待たなければなりませんね.
◆最初の1年間が大切です.たくさん手間をかけ世話をしてやらなければなりません.今年から適用しているシステムに、木を一本一本知るために新しく開発さ
れた”木のIDカード”「トランスポンダー」があります.これは30×3,5mmのチップを木に埋め込み、その木の健康状態をコンピュータ情報として捉え
る仕組みです.これで、出生から生いたち、病歴、現在の状態が木の内側から伝えられ、ケーススタディできるという画期的なものです.外から見えなかった木
の本当の状態、例えば、虫に喰われて中が空洞になっているから倒れる危険性があるとか、病気になりかけているなどがわかり、手当てや処置が早めにできるわ
けです.現在街路樹に92000個のチップが埋め込まれましたが、情報整理に大変な時間と手間がかかります.かつてパリのニレの木が全滅してしまったよう
に、計画通りにいかない事もあります.パリの木は郊外のランジスで植育されたものが中心です.国内または外国から取り寄せることもありますが、街の熱のお
かげでしょうか、南仏産エノキなど暖かい地方の木も順応しているようです.
… 将来の計画について.
◆計画は必要に応じて実現されますが、現存する樹木を取り除いて新しい緑地を造ることはしません.あるものは保存する努力をしています.そしてここ10年
来、緑に対する関心が高まり、調和のとれた街づくりが進められています.保全管理だけではなくクリエーションも心掛け、可能であれば、どんどん植樹してゆ
くようにしています.同時に木は生き物であるという意識を持ってもらうよう、色々なイベント、講演で人々に呼びかけています.9月にはパリ市企画の催し物
がたくさんあります.ちょうどこの 9月22日(土)と23日(日)には”Fête des jardins de
Paris”がありますよ、是非どうぞ.
… それでは次の機会に、パリの公園・庭園特集を計画しておきます.今日はありがとうございました.
ペルティエさん
空洞になってしまった幹.
1.3mくらいの高さの所にこのチップを埋め込む.
定期的にチップからの情報を受け取る.
La Direction des Parcs,
Jardins et Espaces verts
公園・庭園・緑地管理局 (DPJEV)
公園・庭園・遊歩道 426カ所
年間管理費 1144 000 000F
管理総面積 3000ヘクタール
● 公園・庭園・緑地管理局で働く人々
庭師・樹木係など 2613人
調査員 750人
造園技師 180人、行政 279人
園芸学校教師 11人 (総3833人)
99年12月26日の嵐の被害被 害現 在道路877本公園・庭園 2231本墓地1803本外環状道802本パリ総計5761本年間平均1539本植樹(1999年嵐以前)
10年程前にオープンしたParc Andre
Citroenは、イギリス式庭園とフランス式庭園を現代的に取り入れた画期的な公園だといえる.以来、多くの公園で芝生への立ち入り禁止が解かれたり、
噴水や流れと戯れたりできるようなオープンスペースがどんどん造られている.貴族的で私的なフランス庭園が、イギリス式、つまりより自然な、オープンな、
触れられる公共の庭園へと変わりつつあることに気付く.これが政治なのか風潮なのかはともかく、市が市民に対してサービスとして、心地のよいものを生活の
中に増やしてゆくのは悪いことではない。
そして、ペルティエさんいわく「木が生き物であることを知らない」市民達と共生してくれている木々草花に、心地よく生きてもらうために国立森林局
(ONF)は、自然環境への尊重を大衆に促す教育 『l’écocitoyennete』を推進しているそうだ.
インタビューと写真:(麦)