「クラゲ」に歴史あり。

バカンス、とくに浜辺に欠かせないプラスチックの「クラゲ」サンダル。
これがあれば暑い砂浜も、川や海の底のゴツゴツもジャリジャリもこわくない。

 フランスでは永年「クラゲ méduse」と呼ばれ、親しまれているこのサンダル、アスファルトの道でも延々と歩ける。早めに売場に駆けつけないと、サイズ・色など希望に添うものが入手できず、悔しい思いをする。
 さて、このクラゲはどこから来るのか。イタリア製、中国製、フランス製、と様々だが、一体こんな素晴らしいものを考えたのは、どこの誰なのだろう? さっそく全力で調査をすすめたオヴニー特別調査隊は、本家本元がオーヴェルニュ地方のプラスチック会社であることをつきとめた。「山」のイメージが強いオーヴェルニュ地方でクラゲが作られていたとは。プラスチック・オーヴェルニュ社は、PVC(塩化ビニール)の靴専門の製造会社で、「サレジエンヌ」のブランド名のもとに、長靴(ひとくちに長靴といっても乗馬用、狩猟用、調理人用、お出かけ用、と幅広い)から、ガーデニングが楽しくなりそうな木靴風のもの、フランスで「トング」と中国風(?)の名で呼ばれる、日本でいうところのビーチサンダルなどを作っている。
 クラゲサンダルが最初に作られたのは1946年。サンダルといえば革製だったのが、この時代の革不足で他の素材を使わざるを得ず、塩化ビニールのサンダルが誕生した(これは同じ頃、革不足からラフィア椰子の繊維や魚の皮、セロファンなど多様な素材で靴を作るようになった、かの高級靴ブランド「フェラガモ」の伝説に匹敵するのではないか)。フランスでは1941年の1月から、革靴が配給制になっていた。1941年に600万足の革靴をドイツに差し出す、という協定が、独仏間で調印されていたのだ。そんな社会を背景にフランスでは冬物にはフェルト地、ワックス加工した木綿、夏物にはワラ、ラフィア、布などを使った靴が登場。靴底もコルク、木、ゴム、プラスチックなどが使われるようになる。
 クラゲサンダルとともに1946年に会社を興したプラスチック・オーヴェルニュ社は、同年に「クラゲ」の特許を獲得。しかしその20年後、特許の期限が切れると、他のプラスチック会社も同じものを作るようになった。それらはあまりにも上手にできていて、本家本元でも靴の裏のロゴを見なければ、見分けがつかないほどだそうだ。クラゲという名称は80年代になってやっと登場する。半透明で、心持ち粘り気があり、ゼラチン質っぽいサンダルを、あるファッション・ジャーナリストがこう呼んだのだそうだ。
 「会社設立から57年間、200万足以上のプラスチックのサンダルやトングを作って参りました。フランスで、子ども時代に〈サレジエンヌのサンダル〉を浜辺やプールで履かなかった人がいるでしょうか?「クラゲ」は本当に多くのフランス人のバカンスに関わってきた、20世紀のスター商品なのです」とプラスチック・オーヴェルニュ社3代目のパリエ社長は結んでくれた。(美)

「クラゲ」の本家本元〈サレジエンヌ〉のロゴ。

形は皮編みサンダル、素材は塩化ビニールの「クラゲ」。
透明で涼し気。