ピカソの作品はこれまでに何度となく目にしてきたが、”Picasso Erotique” は、断片ずつでしかなかったそれぞれが大きな円を描き、全体像としてきれいに閉じる、そんなエキスポジションだ。
ここには直接「性」に関わる作品ばかりが集められている。1894年に13歳のピカソが描いたスケッチで始まり、バルセロナ、マドリードの美術学校時代からパリに移り住んだ1900年代へ。美学生の頃、年上の仲間に連れられて売春宿へ出入りし始めたというが、宿の客であると同時に、観察者であるピカソの描く女、男、抱擁、接吻、娼婦、客、女衒の数々……、これらのモチーフは、これから一生描き続けることになる。ピカソの創作者としての原体験を知ることができるのは、このエキスポの貴重な点だ。
青の時代、ばら色の時代の作品の後に1930年代の、ギリシャ神話に登場するミノタウロス*をモチーフとする作品が並ぶ。力ずくで若い娘を奪い、その寝顔を愛でる姿は彼自身を体現しているが、現実のディテールを超越して、作品は圧倒的な力を発散し、壮年期の彼のエネルギーがみなぎり感動的でさえある。80歳を過ぎてから制作したエッチングも非常に興味深い。「年齢が煙草をやめさせるが、煙草を吸いたい気持ちは残る。セックスも同じだ」とは老年ピカソの言葉。画家ラファエロとモデルのフォルナリーナを描いた連作では、画家とモデルの関係、それを傍観する教皇やミケランジェロなど、肉体的現実と欲望の狭間に立った人間ピカソが遍在する。
衰えることのないパワーで描き続けた彼の、亡くなる前年、1972年の作品でエキスポは幕を閉じる。300点以上ある展示作品のなかには、露骨でこれまで公開されなかったものも多いという。「芸術は清らかなものではない。無知潔白な者には禁止すべきだし、充分心の準備がされていない者には触れさせてはいけない。芸術は危険なのだ。もし清らかだったら、それは芸術ではない」。活力に満ちたこのピカソという存在は、92年間地上にあった、とてつもなく強い一個のエネルギーだったのだ。(仙)
Galerie nationale du Jeu de Paume: 1 pl. de la Concorde 8e
5/20日迄 (月休)
*クレタ王ミノスの妃パシファエが雄牛と交わって生んだ牛頭人身の怪物。幽閉された迷宮ラビュリントスで毎年生贄の若い男女7人ずつを貪り食った。
Alberto Giacometti:Le dessin l’マuvre
今年生誕100年を迎えたジャコメッティ(1901-1966) の回顧展。造形活動の要であると彼自身が考えていたデッサンを年代ごとに展示する。
厳しくそぎ落とされた彼の彫刻に心動かされたことがあれば誰しも、その過程となるデッサンが見たくなる。子供時代から、エジプトやアフリカ芸術に惹かれシュールレアリスティックな作品を制作していた時期、続いて1930年代半ば、リアリティーへ目を向け直してからのデッサン。そして40年代、50年代。空間は幻影でしかなく、時間だけが現実であると考え、一瞬一瞬に残る空間の跡の集積のような、折り重なる硬質な線から成るジャコメッティのデッサン。
「デッサンから作品へ」とタイトルされたこの展覧会だが、残念ながら展示されたデッサンに完結した力をもつ作品が少ない。回顧展に全時期を網羅したくなるのはもっともだが、初期・中期の作品をもっと省略し、彼の世界観を豊かに正確に伝える40年代以降をより充実させるべきだったのではないか。
ジャコメッティの目は物理的な形体を透過して、遠くの次元へ浮遊する。展示されていた数点の彫刻と絵画が素晴しいだけに、これらを取り巻くデッサンで、もっと深く掘り下げてほしかった。(仙)
ポンピドゥ・センター : 4/9日迄 (火休)
●Jean-Bernard C.
日本発緊縛の官能世界がイラストに。未成年者入場禁止。3/17迄
Boutique Demonia: 10 cite Joly 11e
●Bernard BUFFET (1928-1999)
1945~49年制作の絵画24点。3/21迄
Galerie Maurice Garnier: 6 av. Matignon 8e (月休)
●Louise BOURGEOIS (1911-)
デッサン、彫刻、インスタレーションなど、近作約30点を展示。3/31迄
Galerie Karsten Grece: 5 r. Debelleyme 3e
●<L’Asie des Steppes,
d’Alexandre le Grand a Gengis Khan>
黒海から黄河にわたる中央アジアの文化を広大なスケールで物語る180点。4/1迄
Musee Guimet: 6 pl. d’Iena 16e (火休)
●CHEN Chieh-jen
1960年生まれ。ヴェニスやリヨンのビエンナーレに出品されてヨーロッパで注目され始めた台湾人アーティストの写真作品。5/20迄 (月休)
Jeu de Paume: 1 place de la Concorde 8e
●Ingres & Marcotte
アングル(1780-1867)のデッサンと、彼のメセナであったマルコットとの間にかわされた手紙。4/1迄
Institut Neerlandais:
121 rue de Lille 7e (月休)
●Goncalo IVO (1958-)
木が内包する生命力を描く。ブラジル人アーティストの作品。4/2迄
Galerie Flak: 8 rue des Beaux-Arts 6e
●<Paris 1900, Les artistes americains a l’Exposition universelle>
1900年パリ万博で紹介されたアメリカ人アーティストたちの作品はアメリカ派と呼ばれた。当時のアメリカ館を再現し、絵画を中心に98点を展示。4/29迄(月休)
Musee Carnavalet: 23 rue de Sevigne 3e
●草間弥生 (1929-)
繰り返し、増殖のイメージから成る作品は自身いわく「強迫観念が生んだもの」。ニューヨーク前衛アーティストとして活動した60年代以来、72歳の現在も精力的に制作を続ける彼女の近作約10点。インスタレーション作品。5/19迄
パリ日本文化会館: 101bis quai Branly 15e (日月休)
●Paul SIGNAC(1863-1935)
友人スーラと共に、光を色の点の集合とみなす分割描法で表現を続けた新印象派の画家。134点の作品を集める。5/28迄
グランパレ: 3 av.du general Eisenhower 8e (火休)