つまらないこだわりとは知りつつも… Pour un oui ou pour un non


 ここ数年来度々上演され、「現代劇の定番」になりつつあるナタリー・サロートの舞台劇だが、今回は98年に国立コリーヌ劇場で上演されたジャック・ラサル演出の舞台の再演で、初演時と同様、ユーグ・ケステールが主演のひとりとして登場している。
 腹心の友、男1が放った「それはいいね」の言い方に傷つき、その友との距離を保とうとする男2と、なぜ男2が自分から離れようとするのかがわからずわけを探りにきた男1が交わす会話は、「それ」が何を意味するのかがわからなくても、ひとつの言葉、一片の文章が他人に与える印象や個々の解釈の違い、そこから生まれる様々なドラマの可能性を教えてくれる。ふたりの男の言葉のやりとりは、ただ「それ」だけには終わらず、隣人夫婦を巻き込んだ挙げ句、人生観に及び、そして相手への非難の直球が飛び交うまでに発展する。滑稽でもあり深刻にもとれ、核心がないようで核心をついているこの作品を執筆しながら、作者のサロート自身はどんなに楽しんだろう、と想像する。人間が日々悩み苦しむ問題の中には、かくも正体不明で根拠のない些細なことだってあるのだ。そしてそのことを理解しながらも、悩み、苦しみ、議論することに生きがいを見出す人々が世の中にはゴマンといる。この男1と男2のように。8月末まで。(海)
*Theatre de l’Atelier :
1 Place Charles Dullin
18e 01.4606.4924
月‐土/21h 土マチネ/18h


●Pueblo Horno
「痩身な」というより「やせこけた」という表現がぴったりの男優ダニエル・エミルホークは今年77歳を迎える。映画『フェリーニのカサノバ』  
 や、新しいところではジュネ&カロの『ロストチルドレン』などに登場する彼の、つるつる頭とぎょろりと光る眼差しを覚えている人もいるだろう。その彼が、6区にあるリュセルネール劇場で独り舞台に立っている。杖をつきながら登場するエミルホークは、脇に茶封筒を抱えている。封筒の差出人は彼自身、そして宛先も彼自身なのだと開口一番観客に説明し、くたびれた紙切れの束を取り出す。それから1時間の間、粗末な木の椅子に腰掛けたエミルホークは、ロシア出身のユダヤ人だった両親のこと、チリで過ごした幼少時代、パリに来たばかりの自分、チリの病院でひとり寂しく死を迎えた母親への負い目、今はもういない友人たちのこと…を演じるのではなくひとり物思いにふける。あるいは親しい友を相手に昔の思い出を反芻するかのように、過ぎ去った時の中を行きつ止まりつ、ゆっくり語っていく。消耗しきった舞台上のエミルホークに拍手を贈りながら、なんという存在感、なんという俳優だろう、と感心。(海)
*Lucernaire : 53 rue Notre-Dame-des-Champs 6e 01.4544.5734
月-土18h30 75F/120F
● 演劇三昧の夏はいかが?
 まず、いちばんの規模を誇るアヴィニョン演劇祭 (7/6日~30日: 04.9014.1426)では、ジャック・ラサルがイザベル・ユぺールを演出するMedeeやバルタバス率いるジンガロの新作Triptyk、常連オリヴィエ・ピィの創作劇L’apocalypse joyeuseなどのインに加え、約500にのぼるオフの舞台が演劇好きを待っている。アヴィニョンに行けない人は、去年からパリ郊外Vitry-sur-Seineで始まった演劇祭NOUS N’IRONS PAS A AVIGNON (7/6日~8/13日: 01.4682.6190) に揃うアヴィニョン・オフに負けない元気な出し物へ。また、アヴィニョンの次に歴史の古いペリゴール地方のサルラ野外演劇祭 FESTIVAL DES JEUX DU THEATRE (7/18日~8/9日: 05.5331.1083) も、モリエール、ラビッシュ、ゴルドーニなどの定番劇や創作劇など、バラエティ豊かな内容で興味深い。最後に、ペルピニャンのLES ESTIVALES DE PERPIGNAN (6/27日~7/29日: 08.2501.4242) には、ダンス、演劇、オペラ、クラシックや民族音楽、朗読など多彩な舞台作品が揃う。パリで すでに上演されたものもあるが、どうせなら「わが街」というテーマでペルピニャン市民が書いた文章をランベール・ウィルソン、ジャン=ルイ・トランティニャン、カルメン・マウラが朗読するLettre a ma ville(7/7日)や、マルセイユを基盤に活躍するアスカリド&ゲディギアン夫婦の創作劇Le grand theatre(7/18日)など、南仏ならではの出し物を楽しみたい。(海)