ユダヤ人の個人史でもある。 Lasar Segall展


 ラザール・セガールは、1891年リトアニアの首都ヴェルナに生まれたユダヤ人である。ロシアの混乱をのがれて、ベルリンで美術教育を受けた彼は、1910年、ドレスデンに移り住む。ドイツ表現主義の影響を強く受け、1919年、他の表現主義アーティストらと共に、グループ1919を結成。1923年、サンパウロに渡り、ブラジル国籍を取得、1957年に亡くなるまで生涯をこの地で過ごすことになる…。
 こんな風に彼の略歴から始めたのは、この展覧会がユダヤ歴史美術博物館で企画されたものであり、これは作家の回顧展であると同時に、20世紀前半を生きた一人のユダヤ人の個人史でもあるからだ。
 彼の創作の原点となるのは、ユダヤ人街で過ごした故郷ヴェルナの風景や、そこで身を寄せ合うようにして生きる人々、そんな暗い郷愁であり、次第にその眼差しは、庶民の心の奥底へと向けられてゆく。ドライポイントや木版の、肉づきのない線と、瞳のない空洞の目。その独特のスタイルが、人間らしい表情を消し去り、悲しみと絶望だけを浮き彫りにする。ドイツ時代彼が描いたのは、貧しさにすさんだ家族であり、生活に疲れた労働者であり、子供を失った母親であった。それが、ブラジルに渡って、豊かな自然と明るい光に出会い、彼の目に新鮮に映ったであろう異国の人々の生活がモチーフとなる。作品は、色と肉感を得て、エキゾティシズムが色濃く表れる。以前の鋭さは失われてしまうが、人間本来の自然な姿に触れて、彼自身が開放されていくのがわかる。
 そしてあの、ナチスの悪夢…。展示されているのは「戦争の光景の手帳」(1940-43) と題されたスケッチ風の小さな水彩画数点だけだ。どこか客観的なその描写の中に彼の静かな怒りと悲しみが感じられるものの、まるでそれっきり口を閉ざしてしまったかのようだ。人間の孤独と絶望を表現することから出発した彼が、芸術家としての故郷ドイツで同胞の身に起きた悲劇に何を思い、どこへ行こうとしたのか。わずかに数枚の晩年の作品の中には、山や森がモチーフとなって現れ、そこに以前とは違った静寂が見られるのみだ。(知)
*Musee d’art et d’histoire du judaisme:
71 rue du Temple 3e 5/14日迄(土休)


L’Autre moitie de l’Europe展
 ”The happiest man” の家 (というより寝床) は映画館の中にある。世界で一番ハッピーな男、なぜって、家にあるたったひとつの窓からは大きなスクリーンが見え、いつでも夢の世界<映画>に浸っていられるんだから。男の家とこの映画館はジュ・ド・ポーム美術館の中にあり、そこでは今、東欧アーティストの作品展「向こう半分のヨーロッパ」が開催されている。4つのテーマで構成され順次展示されていくが、現在は2つめの<現実社会/実存/政治>。上記の、すでに西欧でも著名なロシア人Kabakovの作品のほか、我々がまだ知らない作家たちの興味深い作品を見ることができる。
 例えば、ポーランドのWodiczkoは、広島の原爆ドームのふもとに投映された印象的な映像のインスタレーションをフィルムに収めている。もう一人のポーランド人Liberaは、ガイコツ姿の収容者、監視人も付いた強制収容所レゴセットを作った。(スポンサーはレゴ社! ) また、ウクライナのSavadovとSenchenkoによるモード写真では、葬儀をバックにしたモデルたちが墓地でポーズをとる。
 多くの作品は非常に完成度が高い。東欧のアートはもはや西欧の模倣ではなく、成熟した姿で世界のアートシーンの一端を担っているということを教えてくれる。必見。(ヤン/訳 : 仙)
4/9日迄(月休)
*Jeu de Paume: 1pl. de la Concorde 8e  
3部<謎/秘密/神秘>は4/21日~5/19日


●Georges BADIN (1927-)
矩形にとらわれない自由な形体の画面に広がる繊細なハーモニー。4/15迄
Galerie Berthet-Aittouarers:
29 rue de Seine 6e
●Miwa YANAGI (1967-)
日本の消費社会に組み込まれた制服の女たち。コンピュータ処理した写真が象徴する個を排された彼女らと都会。4/22迄
Galerie Almine Rech:
24 rue Louise Weiss 13e 
●Jean-Christian BOURCART (1960-)
リベラシオン紙で活躍する写真家によるフィルム作品。テーマは<社会や個人の中に潜む暴力><孤独>など。4/29迄
Galerie du jour agnes b.:
44 rue Quincampoix 4e 
●Douglas GORDON (1966-)
映像、音響、写真、言語などの表現手段で90年代を駆け抜けた若手のホープ。変速された既成の映画を投映するインスタレーションを始め、近旧の作品を二重性のある空間に設置。相反するエレメントが観客個々の記憶に入り込む。4/30迄
パリ市近代美術館:
11 av.President-Wilson 16e (月休) 
●Mariko MORI (1967-)
過去/現在/未来をテーマに11都市をとらえる。ビデオ・インスタレーション。
ポンピドゥー・センター 4/30迄 (火休)
●Terry FOX(1943-)
60年代から作品と観客の関係を作品化してきたFOXが<A d伺aut de silence/静寂の代わりに>暗示するものは?5/6迄
Galerie Lara Vincy: 47 rue de Seine 6e 
●Valerie Favre (1959-) <Interieur>
あやふやな場所にいる漠然とした存在、自分。曖昧な老若、美醜の観念。内面世界を描くシリーズ。5/13迄
Galerie Nathalie Obadia:
5 rue du Grenier-St-Lazare 3e 
●Kiyoharu UCHIUMI (1937-)
250の和紙の塑像が12の場面に繰り広げる平家物語。5/13迄 (日休)
パリ日本文化会館: 101bis quai Branly 15e
●<Magie et realisme>
「ポスト表現主義」「新古典主義」「新写実主義」などと呼ばれる、両大戦間にヨーロッパで起こった写実絵画のムーヴメント。1925~45年に描かれたオランダ人アーティストの作品約100点。5/14迄
Institut Neerlandais :
121 rue de Lille 7e (月休) 
●ルーヴル美術館の2つの特別展
<レンブラント(1606-1669)の銅版画>
銅版画90点とデッサン、原板を展示。
6/19迄 シュリー翼 
<オスマン帝国様式のカリグラフィー>
15世紀に生まれた装飾的なスタイル。
5/29迄 リシュリュー翼 (火休)
●<1900>
絵画、彫刻、建築、インテリア、写真、グラフィックなどの作品で1895~1905年のヨーロッパ芸術の動向を見る。6/26迄
グランパレ (火休)