Travers de porc a l’ardennaise
シュークルート独特の香りを作っているのがジュニエーヴル genierre と呼ばれるネズの実だ。この実が入る料理は、アルデンヌ (フランスとベルギーの国境に接する地方) 風とかリエージュ (ベルギー東部の中心都市) 風と呼ばれることが多い。今回はスペアリブ travers de porcをビールで煮込んでネズの実で香りをつけ、北国の空気を思い出すことにしたい。 スペアリブは、骨がかなりの割合を占めるので、4人分として1キロ200 グラムほど買ってくる。ネズの実は小瓶に入ってどこのスーパーでも売られている。ビールは750cc使うが、ラガータイプのものよりも、”Leffe” のようなベルギー産ビールの方がコクがあっていい。少し甘い”Killian” でもおいしくできる。 まず、豚肉の骨と骨の間に包丁を入れて切り分ける。玉ネギ2個は薄くせん切りにする。ニンニク2片は押しつぶしてからみじん切り。ニンジン2本は薄く輪切り。ネズの実は少なくとも20 粒は入れたい。よく香りが出るように、僕はその半分を細かく叩きつぶしておく。これで下準備完了。 ココットにラードか落花生油をとり、強火でスペアリブを炒める。きれいな焼き色がついたら、塩、コショウ。ここで玉ネギとニンニクを加えてさらに炒め続け、玉ネギに軽く色がついてきたら、小麦粉大サジ2杯をまぶす。しばらく炒めたら、ビールを注ぎ入れる。味を少し複雑にするためにマスタードを大サジ1杯ほど加えるのもおすすめだ。好みでは砂糖少々を足してもいい。 ニンジンとネズの実を加え、沸騰したら弱火にする。ここでもう一度塩とコショウで味を調え、1 時間半ほど煮込んでいくだけだ。ソースにトロミがついて、肉が骨から離れそうになったら、ちょうど食べどき。刻みパセリをたっぷりと散らしましょう。 柔らかく煮上がったスペアリブは、ネズの実の香りいっぱいのソースをたっぷり含んだ傑作だ。 付け合わせはホカホカのゆでジャガ以外にない。飲み物はやはりビールです。(実)
● travers de porc
豚の脇腹の肉を骨付きのまま帯状に切ったもの。脂が適度に混じり込んでいて、ゆっくり焼き上げたり煮込んだりすると、パサパサになりがちな豚肉とは思えない柔らかなおいしさを楽しめる。タバスコなどをきかせたタレに漬け込んでから網焼きにすると、素晴らしい味になる。中華風味でローストすれば、極上のチャーシュー。レンズ豆と煮込んだ一品は、フランスのビストロの定番料理。煮込みには、塩蔵のtravers de porc demi-selを塩出ししてから使えば、さらに味が深くなる。キロ40 フラン前後。
● bières ambrees
切れ味のいいラガー系のビールbière blonde と、コクがあってタフな味わいのスタウト系のビールbière bruneの中間に位置するビールで、色は美しい琥珀色。独特の風味を持ちながらも、それほど重くない。今回のビール煮に使った “Leffe” や “Killian” もこの系統。名高いのはベルギー産の “Mort subite” やサクランボの風味を持った “La Kriek” (トリやウサギを煮込むと素晴らしい)。アルコール度はラガーよりもやや強く、10度~13 度くらいの温度でゆっくりと味わいたい。
●ハーブ・スパイス探検|genierre
ヒノキ科に属するネズの木の紫の実を乾燥させたもので、大きさはグリーンピースほど。なるほどヒノキを思わせる樹脂の香りが独特で、噛みくだくとコショウに近い風味もある。豚肉やキャベツとの相性がよく、シュークルートの香り付けに欠かせないし、ポテに加えるのもいい。キジやイノシシ、ウサギなどを赤ワインに漬け込むときに20粒ほど加えたりもする。漬け込む時間が足りないときは、つぶしたり、挽いたりしてから加えるのがいい。その匂いから想像できるように、英国産やオランダ産のジン gin は、このネズの実の香りが決め手だ。