●Cours toujours
生後8日で割礼を受けたひとり息子の包皮を土に埋めるのを忘れた若いピアニスト、ジョナスは、ユダヤ教成人式の宴会のための演奏を放り投げ、夜のパリへと飛び出していく。外は、ローマ法王のパリ訪問を機会に若いカトリック教徒たちが集う世界大会で賑わい、ジョナスはこの騒ぎに巻き込まれてしまうが、悪夢はこれだけではなかった。
スコセッシの『アフター・アワーズ』をソフトにしたフランス版。素材は揃っているのに料理の仕方が悪いのか、まとまりとリズムに欠ける。「悪夢」をきっちり描くには、現実とのメリハリをもっとつけないとね。監督はダンテ・デサルト。彼の処女作『FAST』(1995) は、まだ個性的だったのに、2作目のスランプかな?(海)
●O SANGUE(Le sang)
父親の失踪の理由を、幼い弟には秘密にする兄と兄の恋人。父親の借金が原因で兄が怪しい男たちに付け狙われている間に、弟は叔父と名乗る男に連れ去られる。その叔父に馴染めない弟は兄を待ちくたびれた挙げ句、叔父の家を抜け出しひとり家路をたどる。
父親がどうして姿を消したのか、父親はなぜ幼い息子に冷たくあたるのか、弟の本当の父親は誰なのか、なぜ父親は借金を背負い込んだのか誰も答えを教えてくれない。弟が兄にしつこく聞く「秘密」の正体をわたしたちはついに知ることができない。昔の白黒映画のようなきめの細かい質感の映像は鋭く美しいが、同時に冷たくて悲しくて「血」まで凍ってしまいそうだ。ポルトガル人監督ペドロ・コスタはこの処女作 (1989) で、家族の「血縁」関係に疑問を投げかける。「血」のつながりを求めて、家へ向かいながら船の舵をとる少年の満足げな最後の表情が忘れられない。(海)
●Ressources humaines (人材)
(吉) 推薦の “Ressources humaines”は、父と息子、労働者と経営者、彼らの間の深い亀裂を厳しく描き、感動しました。
エリート校卒業間近のフランクは、父が工員として働く工場に経営研修生としてやってくる。経営者側の提案もあって、工員向けに、今問題の35時間労働についてのアンケートを行うが、友人になりかけた移民労働者アランは「オレは信じない」とつぶやくだけだ…。
人材課のコンピュータの画面で、父が首切りの対象になっていることを知り、「人材」という言葉が含む “humainesヒューマン” という形容詞がまやかしにすぎないことに気づく…。
そして組合が先頭に立った首切り反対ストに積極的に参加するが、所詮彼は工員でなく、将来の経営者…。
ラストが心を打つ。スト中の工員たちから一人離れて物思いにふけるフランクに、アランがビールを持ってくる。そのアランに「僕はパリに帰る。君はいつここをやめるんだ。君の場所はどこにあるんだ」と問いかけるフランク…。(真)