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●Tout sur ma mere
 ペドロ・アルモドヴァルの前作 “En chair et en os” について「50年代のメロドラマを思わせる切なさが漂う」と書いたが、この新作で、メロドラマはさらに完璧に近づいた。心が洗われるほどに泣けるので、大きなハンカチを持って出かけたい。
 マヌエラが一人で育ててきた息子が17歳の誕生日を迎える。「一度もお父さんのことを話してくれなかったけれど、話してもらえたら、それが一番の贈り物」 「あとでね」とマヌエラは約束し、2人は『欲望という名の電車』を観に出かける。芝居が終わったあと、主演女優のサインをもらおうと雨の中を駆け出した息子は、自動車にはねられて死んでしまう。
 このあまりにも突然な死と同時に、僕らは悲劇の連鎖反応の中に投げ出される。18年ぶりに悲劇の発端の地バルセロナに戻っていくマヌエラ。ベルギーの歌手アルノーは “Dans les yeux de ma mere, il y a toujours une lumiere” と熱唱しているけれど、アルモドヴァルも母親だけが目にたたえることができる光りに焦点を合わせていく。
 メロドラマといっても、一本調子ではなく、娼婦や麻薬中毒者の溜まり場といった生々しい現実や『欲望という名の電車』の舞台風景、ユーモラスできわどい会話などが挿入されていて、独特な呼吸を持っている。
 マヌエラだけでなく、もう若くはない女優フマ、麻薬中毒のニーナ、妊娠している尼のローザといった女たちが忘れられない。カンヌ映画祭監督賞受賞。(真)


● Le temps retrouve
 死の床につくマルセル・プルーストは想い出の品々に触れながら、 知己のあった人々に思いをはせる。 微熱の中で見る夢では、青年、壮年のプルースト自身が現在と過去の間を行き来し、まるで絵巻物になった一個人の過去を解いたり巻き直したりしながらゆっくりと楽しむ傍観者のようでもある。
 「フランス人ならばプルーストの作品を映画化しようなんて大胆な考えは持たなかっただろう」と文学好きの友人が言った。 たしかに幻想的な作品を得意とする映像の錬金術師、チリ出身の映画作家ラウール・ルイスだからこそ、 プルーストの世界を自分の世界の中に自由に取りいれることができたのだろう。 ルイスにしては珍しく超豪華なキャスティングも見物だが(人物図鑑を眺めるようで結構可笑しい)、なにより活字でしか知りえなかったプルーストの世界を映像の上で実現させたルイスの力量に脱帽。(海)