都市と廃虚 –自然と造化物 宮本隆司/柴田敏雄写真展

 大きなビルが足蹴りを食らったかのように横転している、巨大な写真が観る者を呑み込み、あたかもその現場に立ち会わせているかのような臨場感を与える。神戸大震災の光景だ。
 宮本隆司は、84年、たまたま撮ったビルの取り壊し工事の光景から触発されて、都市の崩壊現場を撮り続けている。劇場であったり、刑務所であったり、競馬場であったりさまざまだが、紛れもなく崩壊する運命としての都市の本質的イメージを捉えている。今回のパリ初個展は崩壊する建築物を「アーキテクチュラル・アポカリプス」と題して、神戸震災後の風景、香港の九龍城砦地区、そしてオウム真理教の解体されたサティアンを展示している。同時期に開催されたペイルーレ画廊ではホームレスのダンボールの家ばかり並べた。


宮本隆司 ”神戸 1995″

 対する柴田は、風景の中に、人間が自然を制御しようとする意志の現れとして、防波堤や堰、放水路あるいは防護堤などを極めて美的な感性のアングルで撮っている。墨絵の濃淡を意識させるような白黒の階調が見事だ。自然と造化物との対比が詩情を奏でる。堰から落ちる滝の水しぶきは疑いなく美しい。自然と人為の拮抗と調和、と解釈することも可能だが、日本のステレオタイプ化された美的イメージへと横滑りする危うさをも孕んではいまいか。
 宮本の神戸—オウムの館—ホームレスの一連の写真は、今日の日本の飽和状態を越えた文明の現状報告と取るべきだろう。
 柴田の写真も、環境や生態系の問題と考え合わせるとすぐれて今日的主題であり、両者の仕事は、作家本人の好む好まざるとに拘らず、結果として極めて政治的、社会的な意味を表出しているのだ。こうしたヴィジョンに、今後どのようなクリティカルな視点がさらに介入してくるのかを期待とともに待ちたい。

(kolin)

*Centre National de la photographie
1月4日まで。火曜を除く12~19時。
11 rue Berryer 8e

 


水の都の落日の輝きティエポロ展。


 ティエポロはなんといっても青い空がいい。忘れな草のように青い青い空と白く輝く雲、そして雲間を飛翔する無数の天使たち。明るく軽やかなティエポロの絵は、過去の栄光が残照のように漂う黄昏のヴェネツィア共和国で一世を風靡した。彼の装飾壁画には18世紀の絶対君主たちの注文が殺到し、おかげで今もヨーロッパ各地を旅行していると、しょっちゅうティエポロの青空にめぐり会う。
 10月末からプチパレで開催されている「ティエポロ展」では、「アントニーとクレオパトラ」など彼の代表作の数々と、銅版画、デッサンまでを一堂に展示。多作だったティエポロの、職人芸ともいうべき技術の確かさ、流麗な筆致に改めて感心させられる。劇的で誇張された構図は下手をすると映画館の看板風の安っぽい印象になりがちだが、それを救っているのは軽やかな色彩と、明るさの中に潜む上質のメランコリーだろう。
 彼の死後30年も経たずに、ヴェネツィア共和国はナポレオンの侵入によって崩壊する。ティエポロの青空の輝きには、落日前のひとときの儚さがある。

(由)

プチパレ : 1999年1月24日迄 (月休)
※Musee Jacquemart-Andre でも、修復の終わった彼のフレスコ壁画を鑑賞できる。

● Line ROCHON <近作同時展>
紙・繊維を駆使し、面・曲線・色の交差が生み出す幾何学的抽象作品。12/26迄
GNG : 3 rue Visconti 6e (日休)
Galerie Esteve : 3 r. J.Callot 6e (日月休)
● ARMAN <巨大彫刻>
『イデオロギーの蒸留機』と題しレーニンの胸像と蒸留酒製造機を合体。12月末迄
Artcurial : 61 av Montaigne 8e
● BATEKE <絵画・彫刻展>
中央アフリカの原住民バテケ族の作品。1/4迄 アフリカ・オセアニア美術館 :
293 av Daumesnil 12e (火休)
●フランソワ・マンサール (1598 -1666)
仏バロック建築を確立した17世紀の代表的建築家。生誕400年。ルイ14世下のJules Mansart (1646-1708)とは異なる。1/17迄
Hotel de Rohan : 87 rue Vieille-du-
Temple 3e (12h-18h、月祭休)
●Jean PATTOU <マンサールに捧げる>
マンサール(生誕400年)作の建築物を描く水彩・デッサン。12/31迄 (15h-19h 月休)
Maison Mansart : 5 rue Payenne 3e
● Lydie ARICKX <回顧展>
フランドル出身、バスク地方で制作する女流画家。人体と風景の変容から解体へ。大作を含む50点他、彫刻。1/10迄
Couvent des Cordeliers : 15 rue de l’Ecole de M仕ecine 6e (月休)
● ピカソ <1901~1909>
NYメトロポリタン美術館の主に”青の時代”の作品10点とデッサン25点。1/25迄。ピカソ美術館 : 5 r.de Thorigny 3e (火休)
● 英国表現主義派
人物、街、風景にこだわった英国表現主義派 Bacon、Lucian Freud (フロイドの孫)、Kossof、Mason、Andrews他の作品。1/20迄 Musee Maillol : 61 rue de Grenelle 6e (火休)


Livre
● “Les plus belles Lettres illustrees”
 18世紀後半から今年まで、84人の手紙を集めた楽しい本です。ピカソ、コクトー、極めつきのドラクロワ。そしてユゴーやテオフィル・ゴーチエのプロ顔負けの絵が入った美しい手紙たち…。
 原稿料を払わない版元のビュロズ宛のジョルジュ・サンドの手紙は、列を作る借金取りのイラストつきで「6000F 払うっていったじゃない。明日までに500Fちょうだいよ。500F、500F」マラルメの孔雀に見立てた恋人への連続イラスト手紙もほほえましい。ランボーの、落書き帖のような手紙は「ヴェルレーヌの奴が来た。こともあろうに神を信じろとオレを説得しやがった…」といった調子。
 FAX や e-mail の時代、郵便受けには請求書や DM ばかり。たまには手紙を書こうよという気にさせられます。
(稲)
*Edition de La Martiniere. 285F

 

 


 

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