『Le Concours』
卒業すれば、ほぼ全員が映画業界で職を得られる名門FEMIS。昨年は1048人が受験し、合格者67人、倍率は15倍超。監督コースに限ればさらに倍率は高い。本作はそんな国立映画学校の入学試験を追ったドキュメンタリー。
会場は大講堂。すし詰め状態で隣と肘がぶつかりそう。うつむき思案気な顔、顔、顔。それぞれのペースで答案を埋めている。生徒も大変だが審査官も大変だ。大量の答案をさばくため業界のあらゆる職種の人が参加する。ひとつの答案を複数の人が採点するが、時に点数の差が開きすぎることも。新しい才能に点を付けるのは、かくも難しい。
映画は真剣勝負の「面接」へと進む。志望動機を聞かれ「親は政治家だが私は映画で社会を変えたい」と立派なことを言う女性。だが好きな作品を一本も挙げられない。こんな付け焼き刃の情熱はダメだ。一方、緊張で声が震えても、言葉に真実があれば映画の女神は微笑むだろう。コミュニケーション能力は低そうだが、感性は鋭そうな受験者の面接が終った後、試験官は悩む。「あの人がFEMISに入ってきたら怖い」「いやレフン(『ドライヴ』で知られる俊英監督)は変人だけどいい監督だし…」。こうしてある争点が浮上する。それは面接を通し、芸術家の卵に型にはまった学生像を押しつけてはいないか、だ。
FEMISの試験は血の通わぬイス取りゲームではない。審査官は迷いつつ意見を闘わせ、決定をすり合わせる。それはどこまでも人間味たっぷりな世界。彼らは近い将来、映画業界でともに働ける才能を必死で探している。だから本作は審査官の物語でもあるだろう。彼らの決定が数年後、素晴らしい才能の輩出に変わることを願う。思えば2016年はフランス映画が元気がなかった年。そろそろオゾンやデプレシャンら同校の先輩を越える才能が登場しないと困るのだ。過去に同校で演出コースの授業も持っていたこともあり、近年は『Gare du Nord』『Le Bois dont les rêves sont faits』と秀作の発表が続く、クレール・シモン監督の最新作。(瑞)