Q:うちの相棒はユダヤ教なので豚が使えない。だから私がハンバーグや肉団子などを作る時には仔牛のミンチと混ぜます。
西畑:仔牛もいいですね。色々考えています。
Q:でも普段の料理に豚が使えないと結構辛いです、あの脂がいいのでね。
西畑:切った時の「ジュー」がないんですよね。
Q:そうなんです、残念。肉がばさつく。だから色々「もちもち」と「しんなり」とさせるための工夫はします。でもハンバーグいいじゃないですか。例えばエビが入っていたらどうでしょう?で、つなぎを鶏のミンチにして、優しい味。
西畑:そういう意味では、ハンバーグには可能性がありますよね。まだ誰もやっていないし。ハンバーグはね、できたら、やります。
Q:それは独立して、ということですか?
西畑:いや、一度この店で出してみたいです。独立したらもっと遊びたいですけれど、独立する予定もまだないので。
Q:でもいつかはやっぱり自分で何かを?
西畑:そうですね、いつかは自分で。ただフランスなのか日本なのかはわからないです。絶対フランスに残りたいか?と言われると、この歳になると親のことも心配なのでどちらがいいのか、と迷っています。
Q:フランスにこだわらないのならば、日本に戻って家業を継ぐということも可能ですよね?
西畑:まあ。でもカウンターだけの小さな店なので、ちょっともったいないと思います。もし帰るなら東京でやってもいい、軽井沢にはこだわっていません。もちろん手っ取り早いのは軽井沢に戻って70を過ぎた親父の代わりに、ということなんでしょうけれど、僕の中にはそれだけじゃ面白くないという気持ちがあります。
Q:しかも日本に戻ってしまうと大好きな赤身肉がない。
西畑:そう、そこが一番の問題なんです。食う欲望を抑えて日本へ帰れるかというとNONですよね(笑)。
Q :フランスに来て赤身肉の他に「よかったなー」と思ったことはないですか?
西畑:生活面で人に気を遣わないで生きていけるということはありますが、やっぱり食い物が美味いということが一番ですね。野菜もフルーツも美味い。うちの母親は田舎出身で、田舎の野菜の旨さを子供の頃に教えてもらっているので、巷に出回っている作られた日本の甘さよりもフランスのものの方が自然だと思います。
Q:フランスのものは確かに味が濃い。
西畑:そう、日本の甘さよりもフランスの自然な甘さの方が美味しいと思えるんです。日本のものは甘すぎる作られた味ですよね、酸味がない、美味くし過ぎている。そういう意味ではこっちの方がいい。僕の話はどうしても食い物が中心になる、食べることが好きなんですよ。料理は作るよりも食べる方が本当は好きです。食べるために作る、そういうことです結局は。だから料理人なんですよね。みんな色々なことを言うじゃないですか、料理についての情熱や作ってこれが面白いとか。僕の場合、ベースは食べることが好きで、だから作るんですよ。家でももちろん作ります。
Q:家でも?
西畑:はい、料理人は家では作らないってよく言いますけれど僕は作る人です。
家で料理をするのは嫁よりも僕の方が多いです。
Q:へえ。どんなお料理を作るんですか?
西畑:日本料理も作りますし、洋食も作るし、中華も作ります。市場に行って材料を買ってなんでも作ります。
Q:得意料理はなんですか?プロの方にする質問じゃないかもしれないけれど。
西畑:何でしょうね。やっぱりオムライス、ハンバーグはよく作ります。こだわっちゃうんです、オムライスに関しては。家でオムライスを作ってくれ、と言われると1ヶ月前ぐらいから肉を買い漁ります。肉屋で売っているペット用の肉とかすじ肉を買って出汁をとるんです。その出汁が十分に取れたところで、デミグラスソースを作るんです。
Q:お肉屋さんのショーケースの端っこに置いてあるあの犬用のお肉で!?
西畑:あれ1ユーロもしないです。
Q:お得意さんには「どうぞ」とあげている肉屋だっていますよ。
西畑:あれを炒めて出汁をとる、それを3-4回繰り返してやっと濃くなってきたら「オムライスが作れるぞ、はい、誰か食べに来てください」ということになります。
Q:逆にそれができないと人が招べない(笑)。
西畑:そうなんです。でもCafé de l’Almaで働いていた頃には、時間に余裕があって引越し屋でバイトをしていたぐらいですので、毎週水曜日に家で友達たちのためにご飯を作ったりもしていました。材料費だけもらってマルシェで仕入れたものを料理していたおかげで、今はなんでもチャチャッと簡単に作れます。だからその時の友達たちには感謝しています。あの時に彼らが「こういうものを食べたい」と言ってくれ、そのために工夫をしたことが今の仕事にも活きていると思います。今は余り物をどうすれば美味しくできるか、というようなことも意外と簡単にアイデアが湧く、というか。
Q:あー、なるほどね。
西畑:あの時代のおかげだと思います。あの頃、友達から「今お腹の調子が悪いからクリーム系のものはダメ」だと言われると、同じものもクリームなしで美味しくなるように色々考えて工夫をした。だから今、店で「乳製品はダメ」とお客さんに言われても対応できる。
Q:臨機応変に。
西畑:そうです。あの時代の経験があってこそです。ありがたいです。みんなのおかげです(笑)。その人たちは料理関係じゃなくて、こちらに修行に来ていた服飾関係の人が多かった。彼らもお金がそれほど自由にならない中で僕が作るちゃんとしたご飯でお腹を満たしていたわけで、いわゆる持ちつ持たれつということだったんでしょうかね。彼らは「やっぱりフランスで食べるものは美味しいね」と言い、僕も色々工夫した。
Q:なるほどね、練習しながら応用を覚えたわけですね。
西畑:そういうことです。
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