労働法改正オルドナンスが9月22日に閣議で承認され、一部が23日に官報に掲載・施行された。その他の条項は適用デクレが今年中に施行される予定だ。大統領選挙中からマクロン大統領が公約に掲げていたとはいえ、オルドナンスで労働法を改変するという強硬なやり方は左派や労組から反発を招いた。「服従しないフランス」や労組は、「エルコムリ法より10倍強い」、「社会クーデター」と非難している。
エルコムリ法では、主に就労時間のフレキシブル化を推し進めて労組の強硬な反発を招いたが、マクロン政権は、不当解雇の賠償金の上限設置など前政権が断念した改革に加え、労働市場自由化をさらに推進する改革を盛り込む。今回の改正により、給与、短時間労働、労働苦痛度など10項目以外の労働条件については企業ごとの労使合意が業界単位の合意よりも優先される。従業員50人未満の企業では労組の委任のない社員代表が経営側と交渉できる。社員投票は3〜5割の従業員を代表する労組が要求できたが、今後は経営側も実施できるようになる。また、企業が経営悪化のために社員を解雇する場合は、再雇用を確保するための雇用維持計画策定が義務だったが、改正後は再雇用確保の措置や1年間は新たな雇用ができないという制限が外される。
労組の力と労働者保護を弱めるこうした措置に労組は当然反対を表明。ところが、最左翼の労組CGTが呼びかけた12日のデモにはFO、CFDT、CFTCなどは呼応せず、これら労組の業界連盟の一部のみが参加。幹部の決定に反発するCFDTやCFTCの運輸部門は25日からの抗議運動を呼びかけている。12日のデモには全国で23万人、21日のデモには13万人(どちらも警察発表)と盛り上がりに欠けた。「服従しないフランス」は23日に別個にデモをするなど、左派政党と労組でも足並みがそろわない。
マクロン政権が数カ月におよんで労組代表と協議を行い対話のポーズを示したやり方は巧妙だ。政府は全く譲歩せずオルドナンスを施行した。「我が国の経済と社会に不可欠な労働市場の改革」とマクロン大統領が言うように、本当に雇用と経済の回復につながるのか?雇用者側がそれを利用して労働条件を悪化させ、労働者を使い捨てにするという労組の危惧が現実になるのか?今回の改正が失業者減少につながるかどうかを注意深く見守る必要がある。(し)