マクロン大統領は12月4日、SNS上で若者向けにニュース動画を配信するメディア「ブリュット」のインタヴューを受け、「警察の暴力」が存在する事実を初めて明確に認めた。
大統領は特にCovid-19危機で大きな影響を受けている若者に直接語りかける必要があると判断し「コロナ危機」、「ライシテ(非宗教)」、「警察の暴力」など多岐にわたる問題に2時間余りかけて記者の質問に答えた。大統領はこのなかで、警察・治安部隊の職務を称えながらも、「警察の暴力」という言葉を用いてその事実を初めて明確に認めた。また、「白くない肌を持っていると、ずっと多くの職務質問を受ける」ことも認めた。
その対策として、警官へのボディカメラ普及のほか、警察による職質関係の差別を通報できるプラットフォームを立ち上げ、警官の不祥事を調査する国家警察監察総監(IGPN)の透明性を向上させるとした。来年1月から市民、議員、警察を集めて「治安会議 Beauvau de la sécurité」を開き、自らも参加するとした。
これに対し、警察の主要2労組は「警察は人種差別主義者ではない」と猛反発。「警察に対する国の不信感」を非難し、大統領への抗議として組合員に職務質問を行わないよう呼びかけた。
反対運動が続く「総合治安法案」
こうした緊迫した空気の背景には、総合治安法案が11月17日に国会に提出されて以来、人の特定が可能な警官・憲兵の写真や動画を流布すれば1年の禁固刑と4万5千ユーロの罰金に処すると規定する第24条に対する抗議運動が続いていることがある。
報道の自由を脅かされると反対するジャーナリスト組合や人権擁護団体、左派政党などの抗議声明が相次ぐほか、28日(13万人)、12月5日(5.2万人)、12日(2万6千人)と全国主要都市でデモが続いている。11月21日にはパリで黒人の音楽プロデューサーが4人の警官に「汚いニグロ」と罵倒され、理由なく殴る蹴るの暴行を受けた映像が広まり、火に油を注ぐことになった。暴行に加えて偽の調書を書いた4人の警官は停職処分となりIGPNの捜査を受けている。
黄色いベスト運動やほかのデモでも平和なデモ参加者やジャーナリストに対する警察の暴力が問題になったが、今回の事件でも、映像がなかったら警察にもみ消されていた可能性は否めない。このことからも第24条の自由・人権侵害の危険性は非常に高いと言えるだろう。
法案は24日に国民議会で388票対104票(棄権66)で可決され、来年初めに上院で審議される予定だ。反対運動を受けて、審議中に第24条に「報道権を妨げることなく」という文句が追加されたが、抗議の声は止まず、人権擁護官、連立与党内の中道派Modemや一部の与党からも第24条撤回の声が上がっている。上院による条文書き直しの案も上がっているが、最終的な法案がどうなるのか、警察の体質改革のためのマクロンの対策が実行されるのかどうか、今後の行方を注視したい。(し)