マクロン大統領は5月3〜5日、仏海外領土ニューカレドニア(以下ヌーヴェル・カレドニー)を訪問した。11月に行われる独立を問う住民投票には中立的立場を取りつつも、太平洋地域における同地の戦略的重要性を強調し、経済振興策を約束して「ともに未来を建設しよう」と呼びかける演説に政権の意図が透けて見える。
ヌーヴェル・カレドニーにはメラネシア系の先住民「カナック」が氏族ごとに住んでいたが、1853年にフランスの植民地になり、ニッケル鉱山が発見されると仏人移住者が人口の3割に達し、鉱山労働者としてアジア人やポリネシア人も到来。カナックの土地は次第に奪われ、伝統的な氏族制度や土地制度は崩壊した。仏系移民とその子孫「カルドッシュ」にニッケル産業を牛耳られ、社会の底辺に追いやられたカナック人の独立運動が1970年代から活発化する。1984〜88年には独立派活動家の射殺事件、憲兵人質事件が起き、内戦に近い状態に陥った。その後、独立派とカルドッシュ代表の間でマティニョン合意(88年)、ヌメア協定(98年)が成立し、カナック人の先住性を認め、防衛、治安、司法、通貨以外の権限が現地政府に委譲された。
ヌーヴェル・カレドニーは国連非自治地域リストに掲載されている。2014年に現地を調査した非植民地化特別委員会は、選挙権や就職でカナック人が差別されていると指摘。その選挙権問題が、11月の住民投票のカギである。投票するには現地出生または20年以上の滞在かつ一般選挙人名簿への記載が必要だ。しかし、カナック人の中には一般名簿に登録されていない人がかなりいる(独立派によると2万5千人)。政府は昨年11月の合意を受けて、現地生まれの非登録者1万900人(うちカナック7千人)の登録を可能にする法案を3月に可決した。
行政当局が係争地を購入してカナック人へ再分配したり、ニッケル企業の資本30%が公的持株会社へ移転されたりといった改善策は講じられているが、いまだに欧州系住民が支配的立場にある構図は植民地主義のまま。住民投票は世論調査では独立反対が59.7%と優勢だ。カルドッシュやポリネシア・アジア系など多くの住民はフランスに留まるほうが有利だと考えるだろう。将来、各共同体が共存していくためには、土地や資源の分配や差別の問題を解決しなければならない。「独立なき脱植民地化」は可能なのか? 「天国にいちばん近い島」の未来はまだ混沌としている。(し)