地球温暖化のリスクに鑑み、2050年カーボンニュートラル達成を目指す欧州連合(EU)のグリーンディール政策を推進してきたフランスだが、ここにきて、その政策の後退傾向が見られる。
フランスは2025年までに農薬使用50%減、グリホサート使用禁止の方針などを2018年に打ち出していたが、1月下旬の農業従事者の抗議運動を受けて、アタル首相はこの計画を一時休止することを決め、休耕地規制(4%)の緩和などを打ち出した。また、ルメール経済相は2月18日、今年度の経済成長予想が1.4%から1%に下方修正されたことを受けて、今年度予算を急遽100億€カットすると発表した。このため、住宅改修手当制度(MaPrimRénov’)の予算10億€カット、地方自治体のエコロジー移行計画を支援するグリーン基金が4億€カットされた。低所得世帯が電気自動車を月100€で長期間リースできる措置も、1月から6週間で5万件の申請があった時点で、予算不足のために今年度分は終了することを決めた。こうしたことから、政府のエコロジー政策が大きく後退した感は否めない。さらに政府は建物のエネルギー効率診断システムを変更し、40平米未満の住宅には適用せず、効率の悪いGレベルの住宅の改修工事は2025年から義務ではなく借家人が変わる際でよいことになった。
ウクライナ戦争開始から丸2年。欧州諸国ではエネルギーや肥料の高騰による食料供給の不安から食料安全保障への関心が高まっている。以前EUは2030年までの農薬使用半減、エネルギー効率を高める建物の改修、生物多様性などを促進する施策を次々と打ち出していた。仏気候経済研究所の試算によると、EU内で気候問題関係の官民の資金投入は2022年で4070億€に達しているが、2050年炭素中立を達成するためには年間8130億€の資金投入(EU総GDPの5.1%)が必要だという。エネルギー効率向上のための建物改修については、2030年までに改修率を倍にするEU委の計画に必要な年間3350億€の確保は難しそうだ(2022年は1980億€)。
フランスと同様、欧州の多くの国々で農業従事者の抗議運動が広がり、EUの共通農業政策(CAP)に規定された環境保護基準への反発が爆発した。EUはすでに農薬の50%削減規則の廃案、グリホサート使用の10年延長を決めている。厳しい国際情勢のなか、資源調達や製造業の国内回帰願望と相まって、環境保護政策の推進が厳しい時期に来ているのだろうか。(し)