9月15日、オーストラリア政府がフランスの潜水艦購入契約を破棄したことで、仏メディアは一斉にその衝撃を伝えた。16日付レゼコー紙は「世紀の契約が危機に」、18日付ル・モンド紙は「フランス外交の失敗」と一面で大きく扱った。その契約破棄発表と同時に、バイデン米大統領は、英豪両首相がオンラインで同席する共同会見で、英、豪とともにインド太平洋地域における新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を披露し、豪に原子力潜水艦8隻の建造技術を供与するとした。フランスはディーゼル動力の潜水艦12隻を2030年代に供給する「世紀の契約」(560億ユーロ)を2016年に豪と交わしており、すでに数十人のオーストラリア人技術者が仏ナヴァル・グループ(国が大株主)で研修中だ。
事前協議なしの突然の契約破棄に、ルドリアン外相が「信頼を裏切られた」と怒りを露わにし、駐米豪の仏大使を召還するという異例の事態に発展した。豪政府は太平洋地域で覇権を強める中国に対抗するため、長期間潜航が可能な原子力潜水艦の必要性を強調し「必要に迫られた選択」と反論。米国への接近姿勢が明確になった。フランスは太平洋に仏領ポリネシア、ヌーヴェル・カレドニーなどの領土を持っており、その排他的経済水域をテコに同地域での影響力拡大を目論んでいるだけに、米英豪が同地域の安全保障体制からフランスを排除するような姿勢に屈辱感を覚えているのだろう。
英首相と米大統領はそろって、フランスとの緊密な関係は変わらないと強調。EUは当初、慎重な姿勢をとっていたが、20日になってフランスへの連帯感を表明した。ミシェルEU理事会議長は、アフガニスタン撤退に続いて米が自国の利益のみを優先していると批判した。22日になってマクロン大統領とバイデン大統領が電話で話し、10月末に直接会って協議することを決めて一定の鎮静化をみた。
国営テレビF3は、豪政府が5月頃から仏潜水艦の代替案を模索し、豪首相が6月訪仏時に、契約への不満を仏大統領に表明していたと報じている。右派や社会党の上院議員らは、豪の寝返りを察知できなかった外交の失策について国会調査委員会の設置を求めているほか、北大西洋条約機構(NATO)軍を去るべきとする声すらある。今回のことは、マクロンが以前から主張しているEU独自軍の創設につながるのだろうか。加盟国の足並みのそろわない現状にあっては、難しい問題と言わざるを得ない。(し)