「逃げ去る芸術」、アール・ブリュット。
ジャン・デュビュッフェは 「芸術はしつらえのベッドに寝に来ない。その名を口にされた途端に逃げ去る。 芸術が好むのは匿名性。芸術の最良の時間はその呼び名を忘れた時」という警句を残した。この言葉は世の常識や規則から逃げ去る芸術 「アール・ブリュット」にこそ相応しい。長らく無理解にさらされ、芸術の国フランスも手を焼いたアール・ブリュットの作品群。だが、今はいたるところで鑑賞可能だ。「これは芸術?」「そもそも芸術とは?」。そんな根本的な問いを突きつける手強い存在だ。
インタビュー:
「芸術は発明と 伝達が生まれる場所。」
パリ市立アル・サン・ピエール美術館館長
マルティーヌ・リュザルディさん
アール・ブリュットの提唱者であるジャン・デュビュッフェは良い定義をしました。アール・ブリュットとは「衝動的なやり方と、発明的かつ隠れたやり方で、マージナルな場所にいる人によって作られた制作物」と言えます。長い間、それは「狂人のアート」と関連付けられてきました。しかし、それだけではありません。幻視者や神秘主義の人、あるいは独学者やアール・モデスト(簡素なアート)を作る人なども含まれます。それらは全て必要から生まれた「衝動的な制作欲」と結びついています。時に幻覚、精神錯乱の表現にまで行き着くかもしれません。その基本はこれからも変わらないでしょう。衝動による制作はどの時代のどの文明でも、変わらず存在したはずです。究極的な人間性と結びついているのですから。
アール・ブリュットの役割は、これまでも、これからも変わりません。独裁政権が生まれた時、独裁者は何をするのか。まずは人々に制作を止めさせるでしょう。そして思想や書かれた書物、あるいは芸術を真っ先に攻撃します。芸術は発明と伝達が生まれる場所。制作の可能性は世界の変革につながります。それは人間が備える本質的な特性であり、同時にアール・ブリュットの特性でもあります。アール・ブリュットには文化、社会、哲学、倫理的な問題に関わる更新されゆくビジョンがあり、その意味で「人類の冒険」とさえ言えます。そして美学的な見地を超えて、人類の多様さまでも見せるのです。
アール・ブリュット ジャポネⅡ展
アル・サン・ピエール美術館で3月10日(日)まで開催
2010年に12万人を集客した人気企画の第二弾。障害のある人ない人52人の作品を展示。絵画、陶芸、立体作品、刺繍など全640点。広島の被爆者の作品も。東京都とパリ市による文化交流事業。
Halle Saint Pierre
パリ市立アル・サン・ピエール美術館
モンマルトルの丘の麓に建つアール・ブリュット専門の美術館。所蔵品は持たず、企画展を通して世界の知られざるアール・ブリュットの真髄を紹介し続ける。心地よいカフェや書店を併設する市民の憩いの場所。
2 rue Ronsard 18e M°Anvers/Abbesses
月~金 11h-18h、土11h-19h、日12h-18h。
9€/学生 7€/15歳未満6€
www.hallesaintpierre.org