1945年、フランス人画家ジャン・デュビュッフェが提唱した概念「アール・ブリュット(Art Brut)」。専門教育や文化潮流の影響は受けず、内なる衝動から生まれた芸術作品を指す。日本では「生(き)の芸術」などとわかりにくい訳をされることも多い。
アール・ブリュットの源流には、精神疾患の患者や幻視者、受刑者などが手がけた驚くべき作品の発見があった。デュビュッフェやシュルレアリスムの芸術家たちは、文化的規範をすり抜け、真の創造性を獲得したような作品に感化され、時にひとつの芸術の理想形を見たようだ。
フランス生まれの概念だが、社会に受け入れられるまで時間がかかってもいる。デュビュッフェが集めたアール・ブリュットのコレクションはポンピドゥー・センターが受贈を拒否、スイスのローザンヌに居場所を見つけた。
しかし、時代はようやくアール・ブリュットに追いついた。今や世界各地で関連の展覧会が大盛況。パリのアル・サン・ピエール美術館は専門美術館としての地位を確立し、現在は日本人作家の作品を集めた「アール・ブリュット ジャポネ2」展が開催中だ。
先入観に囚われた現代人の感性を試し、芸術の概念に揺さぶりをかける。目も覚めるようなアール・ブリュットの世界へようこそ。(瑞)
取材・文・写真/林瑞絵