フランス人はチーズに目がない。先日フランス人家庭に招かれたら、熱々の野菜のスープの後はチーズだけという食事だった。といっても、ブリ、ロックフォール、セル=シュル=シェール、マンステール、コンテ……の豪華な盛り合わせで、客たちから歓声があがった。大量のサラダといっしょに、それぞれのチーズに合うように、バゲット、シリアル入パン、クルミ入り天然酵母パンなど、パンも数種類添えてあった。
チーズが主役の料理といえば、スキー場のレストランで味わうチーズ・フォンデュとラクレットだろう。ゆでたジャガイモや生ハムに、とろりと溶けたチーズをかけて味わうラクレットでは、一人分150グラム前後のチーズ(!)を用意しなくてはならないのだが、家庭でも簡単にラクレットができる道具が普及しているくらいに人気がある。そしてタルティフレット。玉ネギとベーコン、ゆでたジャガイモを、サヴォワ地方名産のルブロションでおおってオーブンで焼く料理だが、ルブロションが丸1個(約500グラム)必要というのだから、チーズ好きにはたまらない。このレシピ、売れ行きが伸びないルブロションを大量にさばくために80年代に考案されたという。
キッシュやグラタンにもチーズが活躍。キッシュ・ロレーヌでは、卵+生クリーム+牛乳のたねに、おろしたエマンタルやコンテが加わって豊かなうまみになる。ホタテ貝のグラタン、アンディーブのグラタン、カリフラワーのグラタンにも、ベシャメルソースにおろしたエマンタルを溶かしたソース・モルネーを、上からたっぷりかけてオーブンで焼き上げる。
レストランでステーキを頼むと、「ソースはペッパー風味、それともロックフォール風味?」ときかれることが多い。小鍋にバター少々をとり、みじんにきざんだエシャロット2個を弱火でいため、しんなりしたらマスタードを小さじで1杯ちょっと入れ、ポマード状の生クリームを大さじ4杯、小さく切り分けたロックフォール80グラム前後を加える。相変わらず弱火で、たえず混ぜ合わせていく。ロックフォールが生クリームにすっかり溶けこんだら、黒コショウを多めにひき入れれば、すっかりプロの味。これで4人分の量です。(真)
Plateau de fromage
季節ごとのチーズを組み合わせてプラトーを。
チーズ屋に、形、色さまざまに並ぶチーズの種類は圧倒的だが、それにひるまず、チーズ好きの友人を招いたら、その中から三つほど買ってきて、もてなしてあげたい。牛乳製、羊乳製、ヤギ乳製をうまく組み合わせたり、クリーミーなものから少々臭みのあるものまでのバランスを考えたりしながらの春、夏、秋、冬の盛り合わせplateau de fromage。お店の人に食べごろのものを選んでもらいましょう。
春: ①ヴァランセValençay(ヤギ乳)、②ブリヤ・サヴァランBrillat-Savarin(牛乳+生クリーム)、③フルㇺ・ダンベールFourme d’Ambert(牛乳)
①はピラミッドの先を切りとったような形で、やわらかな酸味、まぶしてある木炭灰がヤギ乳の酸味をやわらげる。②は生クリームがたっぷり入ってどこまでもまろやか。③草原が広がるオーヴェルニュ地方で古くから作られている青かびチーズ。
夏:①クロタン・ド・シャヴィニョルCrottin de Chavignol(ヤギ乳)、②ヌシャテルNeufchâtel(牛乳)、③マンステールMunster(牛乳・ウォッシュタイプ)
①は小さなだんご状で、熟成が若いものをオリーブ油やきざんだシブレットを振りかけて味わうとさわやか。②はハート形がたのしい白かびチーズ。③は、ウォッシュならではの臭いがあるが、濃いミルクの風味。クミン粒を添えることが多い。
秋:①エポワスEpoisses(牛乳・ウォッシュタイプ)、②スティルトンStilton(牛乳)、③サン・ネクテールSaint-Nectaire(牛乳・セミハード)
①はウオッシュタイプの中でも個性的な臭いだが、中身はとろとろ。②はイギリス産の青かびチーズで、ポルトー酒などとも合う。③はルブロションに似た風味だが、こちらの方がぐんと味わいが深い。
冬:①カマンベールCamembert de Normandie(牛乳)、②ロックフォールRoquefort(羊乳・青かびチーズ)、③ボーフォールBeaufort(牛乳・ハードタイプ)
①は、おなじみの白かびチーズだが、生乳lait cruをつかったものはひと味もふた味もちがう。②は、青かびチーズの王者格で、羊乳ならではの味わい。③は、コンテと並んでハードタイプを代表する傑作。熟成の進んだ12カ月ものなどは絶品。