Q:このお店は本当に立地がいいですよね。
松根:でもここに移ってきて、これまでの庶民的な地区とは違って難しいとも感じています。ここは夜も営業できる物件なので、夜もやろうと思った時に子供たちがまだ小学生と小さかったので、日本人シェフを雇って昼と夜は違った料理を出すことにしました。はじめはいいんですけれど、だんだん折り合いがつかなくなっていくので、1年交代で3人の方と仕事をしました。維持費が大変で、思ったよりも売り上げが出ないんです。
Q:どんな風に昼と夜ではスタイルが違ったんですか?
松根:夜は完全にシェフに任せて私は一切口出しをしない、ということですが一応30ユーロぐらいで食べられるというのが基本でした。ただ材料費が高すぎたり、凝りすぎて料理がなかなか出ない、とか。他のお店でもそのぐらいの値段だったらそうかもしれませんけれど、この地域は観光客も結構いるので、別に「この料理を食べたい」と思って来ている人ばかりではない、ということですよね。だからこそパッパッ、と出せる料理も必要だと思います。なのであんまり料理が出るまでに時間がかかるとお客さんが来なくなってしまう。またお客さんがたくさん来るとこなせない。
Q:このお店の席数は?
松根:上は30ぐらい、下は20席ぐらいです。夏場にはテラスがあるし。お客さんが来ればいくらでも入れたい方なので、そこまで料理に凝らなくてもと思いますし、凝らなくても美味しいものというのはあると思うんですね。
Q:確かに。
松根:日本人のシェフはやっぱり料理に凝りたいんですよね。それで折り合いがつかなくなる。人を雇って赤字になるぐらいならば、それこそ夜はやらないほうがいいんじゃないのか、とも思いました。昼の売り上げを夜に回して営業していた感じです。それで最後の人が辞めた後、駄目元で、ということで私が夜もお店に出ることになりました。子供達も少し大きくなって気持ち的にも楽になった、ということもありました。子供達が8時ぐらいに店に来て夕飯を食べてから家に戻る、というリズムを作ったんです。
Q:お住いは遠いんですか?
松根:最初は13区から通っていましたけれど、1区に公共住宅が見つかって今はそこに。 歩いて通えるので便利です。だから夕飯の時間になると子供達は店に来て、ご飯を食べてまた家へ帰っていきます。
Q:じゃあ今は朝から夜遅くまでずーっとここで働いていらっしゃる。
松根:そうですね。実はこのあたりにいくつか店を持っていたペットショップが閉まって、物件が空くというので。別の店、ちょっと飲めるバーのような店も2015年に始めたんですけれど、店を開いたのがあのテロ(2015年11月13日)事件の直前ですぐにあの事件です。観光客をある程度狙って開いたこともあって「えっ!?」ということに。売れるだろうと思っていたワインなども一切売れず、この店も夜は観光客がメインなので、ここだけならまだしももう一つの店がこの店の足を引っ張るようになってしまいました。夜のシェフの問題が片付いたと思ったら、また別の問題です。本当にいつ潰れるのか、と去年一年間は毎日不安でした。
Q:もう一つのお店、ワインのバーはまだあるんですか?
松根:1年やって、今年のはじめにうちの隣にあるインテリアショップが買ってくれたので、まだ「一からやり直しだね」ということに。色々あって暇になってしまったので、夜は洗い場に一人だけということで人件費も削ってなんとか。今は、もう一つのお店で少しやっていたテイクアウトできる料理などもこの店でやっています。口コミで始めたんですが、すぐ近くにある天理さんのスタッフの方などが利用してくださっています。帰りが遅くなるので何かお惣菜を作ってくれないかなあ、と言われてだったらコロッケなんか作りましょうか、ということを去年の12月ぐらいから始めました。天理の日本語教室の父兄さんも利用してくださっています。まあ、なんとか。やっとですよね、観光客もこの春ぐらいからぼちぼち戻ってきたかな、と。
L’Auberge Café
Adresse : 4 rue Bertin Poirée, 75001 ParisTEL : 01.4329.0122
月夜と日休