第2回 じらして得る快楽

 16世紀フランスの思想家モンテーニュは、快楽を求めるルネサンス人だった。定期的に行う断食にしても、特に老人になってからは、食欲を刺激して食べることを楽しむためだとしている。「私は、ゆっくりと少なく食べ、そして何べんにも食べるほうが健康によいと思う。けれども、食欲と空腹にもその真価を認めてやりたい。医者のいう通りに、あんなに窮屈な貧弱な食事を日に三、四回、だらだらとやってもさっぱり楽しくはないだろう。(中略)私の健康の最高の成果は快楽ということだ。何なりと目前の、知っている快楽にしがみつこうではないか」(原二郎訳)。モンテーニュ本人によると、その好物はメロンと牡蠣。肉よりも魚好き。料理にはたっぷりソースをかけて食べたい方。赤か白かの好みは時期によって変わったけれど、ワインにはひとかたならぬ思い入れがあった。それもそのはず、モンテーニュは父親からぶどう畑を受け継いでいて、それは一家を養う糧になっていたという。

 ところで、ある章では「誰であったか、昔、飲み込む食物をもっと長く味わうために、喉が鶴のように長ければよいと望んだ人があった」と、快楽を引き延ばす術について述べている。ここでモンテーニュは性愛を引き合いに出し、恋愛においても「序奏」を引き延ばすことが大事だとした。また他の章では「満ち足りて、思いのままになる恋愛は、過度の美食が胃をこわすように、うとましいものとなる」「女だって、うんざりするほど楽しんでいる人には魅力がない。喉が乾く暇のないものは飲む楽しみを味わえない」と、やはり恋愛と食を並べている。キリスト教徒であることを自認し、城館の一角にある塔に礼拝堂を持っていたモンテーニュだけれど、七つの大罪に数えられている「貪食」や「色欲」への興味はひと一倍あったみたいだ。(さ)


 

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