昨年末の12月4日に5歳の誕生日を迎えたルーヴル・ランス。世界で最も有名な美術館の分館だ。フランス最北部シュティの地(ノール・パ・ド・カレー地方)にあり、パリ北駅からはTGVで1時間10分。ランス駅からは美術館を結ぶ無料バスが30分ごとに発車するほか、徒歩でも20分で到着する。アクセスが良く、パリから日帰りで十分に楽しめる。
ルーヴル・ランスの設計は、妹島和世と西沢立衛からなる日本人の建築家ユニットSANAA。外観のイメージは「河に浮かぶ舟がお互いにそっと寄り添ってつながった」ものだとか。ガラスとアルミニウムで作られた透明感あふれる建物で、洗練されていていながら、昔ながらの北の風景によく溶け合う。屋根が低いぶん、空はぐっと近くに迫る。
一帯は1960年以降、長らく放置されていた鉱山の跡地。至近距離には二連のボタ山も顔をのぞかせ、周囲には林を切り開いた散歩道。訪れた時は雨が降りしきり寂しい光景だったが、そんな枯れた風情も心地良いもの。ひとり北原白秋気分で「落葉松(からまつ)」を口ずさみたくなった。
館内は、自然光がふんだんに降り注ぐ。ルーヴル・ランスの最大の特徴は、何と言っても常設展示室「時間のギャラリー」にある。仕切りのない奥行き120メートルの長方形のスペースに、200点以上の作品が配置される。「絵画は壁面に架けるもの」という固定概念を崩し、新しい鑑賞方法を提案するのだ。中に入るとまるで作品群が宙に浮かび、こちらに迫ってくるよう。
壁面には紀元前3500年から始まり19世紀半ばまで、約5千年の芸術史が目盛りとなり刻まれる。その表示される時代に合わせ作品が鎮座し、手前が最も古く、奥に行くほど時代がくだる。作品は毎年12月に全体の5分の1を入れ替える。昨年末にコレクションに加わったのは、ポンパドール夫人が彫刻家サリーに作らせた天使の像や、コンコルド広場のオベリスクと一緒にフランスに渡ってきた古代エジプトのヒヒ像など。芸術的な価値はもちろん、重要な歴史の証人でもあるお宝43作品だ。