トラクターによる高速道路の封鎖など農業従事者の抗議運動が1月22日頃から始まり全国に拡大。政府は26日に要求への対応策を示したが、運動は継続しそうだ。
環境保護規則や行政手続きの複雑化、収入低下、農業用機械燃料への課税引上げなどに対する農業従事者の不満が秋頃からくすぶり、ここにきて一気に爆発した。エネルギー・肥料・飼料価格の高騰、インフレ対策による生産者価格の抑制などにより農業従事者の生活は全般に苦しくなっており、農業だけで生計を立てる家計の月収は平均1475€。特に牛の畜産農家の25%は貧困家庭だ。秋から市町村名の道路標識を逆さにするという無言の抗議運動が南西部タルヌ県から全国に広がり、18日からは南部オクシタニー地方の高速道路A64封鎖を皮切りに、22日からはほぼ全国に拡大した。
環境保護規則の強化についての農業従事者の不満は大きい。EUグリーンディール政策は、2030年までに農薬使用の半減(11月欧州議会で否決)、生物多様性のための泥炭地・湿地の回復策などを打ち出している。独、蘭、ベルギー、西などでもEU環境保護規則の緩和を求める農業従事者の抗議運動が起きている。ポーランド、ルーマニアなどでは、ウクライナ農産物が無関税で市場に放出されるために農産物の市場価格が低下しているとの抗議の声がある。さらに、EU=南米南部共同市場の自由貿易協定が締結される懸念や、食品加工大手や小売大手からの値下げ圧力などの不満もある。
アタル首相は抗議運動の始まったオート・ガロンヌ県に26日に赴き、農業機械燃料への増税撤回に加え、燃料への補助金が年末払戻しでなく7月から購入価格に直接反映されること、牛が流行性出血病ウイルスに罹患した畜産農家への国の追加支援5000万€、立ち入り検査の回数減、4%の休耕地規則の免除の延長を仏政府がEUに要求することなどの対策を示した。地域的には道路封鎖を解除したところもあるが、全国農業経営者組合連合(FNSEA)は要求の一部にしか答えていないと運動継続の意向を示した。
フランスの農民人口は第2次大戦後、減少の一途をたどり、現在は就労人口の3%。しかし、国民の食料をまかなう農業は単に生産性の低い部門だからと切り捨てて輸入に頼ることはできない。ウクライナ戦争で食料の主権が見直されたように、農業を保護しつつ、環境保護にかなった転換に国が寄り添うことが求められている。(し)