憲法評議会が1月25日、12月に国会で成立した移民規制法の86条中35条を違憲として却下した翌日、マクロン大統領は同法の合憲部分を公布した。
この法案は、難民申請手続きの迅速化や国外退去の簡略化、人手不足の業界における不法労働者への滞在許可発給の容易化を目的にダルマナン内相が昨年2月に提出した。だが共和党が過半数を占める上院で、不法滞在者への国家医療支援(AME)の廃止、外国人の福祉手当受給資格の厳格化、生地主義の制限など、政府案にはなかった修正案が追加されたものが、最終的に国会で可決された。
その法案では、年間の移民受入数を国会で決めるほか、学生身分の滞在には保証金が必要になり、6ヵ月以上合法的に滞在すれば外国人にも仏人と同じく支給される福祉手当(家族手当、住宅手当など)の受給条件が厳しくなって5年間の滞在が必要に。この点は左派や人権擁護団体から「フランス人優遇措置」と激しく批判された。国籍取得についても、結婚の場合は、婚姻期間要件が現行の4年から5年に、在住期間要件は5年から10年へ。生地主義により現在は外国人の両親から生まれた子は18歳で自動的に仏国籍を得られるが、今後は18歳で国籍取得を申請しなければならない。さらに過去に廃止された違法滞在罪が復活し罰金3750€、3年間の仏入国禁止に。外国人の国外退去措置に関する保護が弱くなり、13歳以前に仏入国して20年以上の人は国外退去の対象にならなかったが、共和国原則に違反する人、禁固5年以上の有罪判決を受けた人、DVや議員に対する暴力の場合は禁固3年で退去になる。
ところが、上記のような条項のうち35条項が憲法評議会で違憲となった。家族生活を送る権利の侵害や、合法的滞在者の福祉の権利を侵す条項で、合法滞在する外国人が福祉手当の受給条件が5年以上などと仏人と差をつけられること、家族呼び寄せの要件強化、生地主義の制限、学生に求められる「帰国保証金」など。さらに違法滞在罪の復活のほか、年間移民受入数を国会で審議・規定することは三権分立に反するとして違憲になり、削除された。反対に、難民申請手続きの加速化、13歳以前に仏入国した犯罪者の国外退去の容易化などは合憲とされた。
共和党により大幅に右寄りになった末に、多くの条項を違憲とされた。与党内を分裂させ、閣僚の辞任者まで出した一連の騒ぎは何だったのか。議会の過半数を切るマクロン政権の脆弱さが改めて露見したエピソードだ(し)。