コロナ関連の規制緩和で、映画、コンサート、展覧会、スポーツイベント……と、堰(せき)を切ったように様々な活動が再開された。あれもこれも見たい。飲食店が閉まっていた頃、あんなに焦がれたテラスでの食事やアペリティフも忙しくてままならない。
そんな再オープンラッシュのなかお勧めしたいのが、4年の改修工事を終えて再オープンしたカルナヴァレ・パリ歴史博物館。典雅な16世紀の建物に入れば、彫刻、絵画などの美術品、歴史的人物ゆかりの品々などを見ながら好きな時代にタイムスリップ。世界で最も豊富と評されるフランス革命期のコレクションは、解体されたバスティーユ牢獄の石、ルイ16世の手による最後の勅令、画家ル・バルビエが描いた 「人権宣言」の有名な絵画(それを寄贈したのがジョルジュ・クレマンソー!)…… と、歴史の教科書に載っていた人物や出来事が次々に「現実」として目前に現れることに驚き感動する。
今年はさまざまな記念の年。ナポレオン没後200周年、パリ・コミューン150周年などを「祝う」べきか「記念」だけにするべきか、歴史が紐解かれ、議論が交わされた。歴史を常に見直しながら「今」とこれからを考える。過去を大切にする。そんな姿勢も、この国に住んでいて、いいな、と思うことのひとつだ。(六)
パリの歴史がギュッと詰まったカルナヴァレ博物館。
老朽化が進み2016年に門戸を閉じたカルナヴァレ博物館。コロナ禍の外出制限緩和と歩みを共にするかのように、5月末、鳴り物入りで再オープンした。ルネサンス様式の貴族の館は、パリの記憶の玉手箱のようだ。
4年の大規模工事を終え、再オープンしたマレ地区のカルナヴァレ博物館。パリの歴史をダイナミック、かつ細やかに網羅する。もとは “書簡作家”として名を残すセヴィニェ侯爵夫人が住んだ16世紀築の館だった。セーヌ県知事オスマンの発案で1880年に誕生し、町の歴史に特化した博物館としては世界最古を誇る。
今回の改修を担当したのは建築家のフランソワ・シャティヨン、ノルウェーの建築チーム「スノヘッタ」、インテリアデザイナーのナタリー・クリニエール。展示スペースは3900m2、全部まわれば1.5km。コレクション数はルーヴル美術館より多い62万5千点。この中から選りすぐりの約3800点が展示される。館内はほぼバリアフリー構造で、作品の10%は子どもの目の高さに合わせた展示。子どものイラスト付き解説が多いのも微笑ましい。
一階には19世紀の看板を集めた展示室。ユニークな看板の数々にSNS時代の来館者は写真を共有したくなるはず。だがここで時間を取り過ぎると後が大変。そもそも1日で全部を見るなどとは考えないほうがよいかもしれない。
オープニングセレモニーでイダルゴ市長は、「パリの全歴史をたどるのがカルナヴァレ博物館。序列化も、イデオロギー化もしない」と語った。その言葉通り、先史時代に始まり古代、中世、ルネサンスを通り、17-18世紀、革命、19世紀、そして現代に至るまでの長いパリの記憶が、えこひいきなしに時系列に並べられる。一般に歴史博物館は模型やレプリカ、パネルを多用する傾向がある。しかしカルナヴァレはまず “実物”で直球勝負だ。
蒐集品には本物の重みと静かな迫力があり、一つ一つにドラマ性を感じさせる。マリー・アントワネットの靴、ヴォルテールの椅子、ロベスピエール最期の署名、プルーストのベッド……、歴史上の人物が残すオブジェの数々。あるいは貧しい少年がマーモットを見せて小銭を稼ぐのに使った小箱など、無名の人々の記録にも心惹かれる。長い歴史のうねりの中、自分のような21世紀のパリの無名異邦人は後世どのように位置付けされるのかなど想像するのも一興だ。
今や欧米の町という町の顔は似ている。同じブランドの店ばかりが立ち並ぶ。ここで今一度町の特異性に立ち戻ることは、ひとつのレジスタンスかもしれない。この美術館が入場料無料を貫くのは素晴らしい。町の歴史と個性を大事にし、その魅力を広く伝えることは、結局は、一番その町のためになることをよくわかっているのだ。(瑞)
▶︎(次ページ)カルナヴァレ博物館の「顔」ともいえる、看板展示室へ。
Musée Carnavalet - Histoire de Paris
Adresse : 23 rue de Sévigné 3e , 75003 Paris , FranceTEL : 01.4459.5858
アクセス : M°Saint-Paul / Chemin Vert
URL : https://www.carnavalet.paris.fr/
月休、10h-18h、常設展無料。 要予約。