地中海に面したカーニュ・シュル・メールは画家ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)が晩年を過ごした町。町はずれの小高い丘の斜面に建つ彼の家は、現在ルノワール美術館になっている。500年以上を経たオリーブの木が伐採されるのを防ぐために購入した土地だった。庭には、ルノワールに救われた150本のオリーブの古樹が今も残っている。
カーニュに移り住んだのは、南仏の温暖な気候がリューマチに良いからだった。リューマチのせいで手が不自由だったルノワールは、それでも描き続け、この地で亡くなった。
すでに大画家になっていた彼のもとに、マティスをはじめ、多くのアーティストが出入りした。その中に、フランス留学中の若き梅原龍三郎(1888-1986)もいた。1909年2月、ルノワールを慕ってわざわざカーニュに会いにやって来たのだった。二人の交流は、3月29日まで大阪で開催中の「拝啓ルノワール先生」展で詳しく紹介されている。
カーニュは、山あり、海ありの風光明媚な、中世の面影を残した町だ。早春の一日、ルノワールの家を訪れた。庭のビターオレンジの木には、ルノワールが描いた豊満な女性をほうふつさせる果実が、採る人もなく、たわわに実っていた。(羽)
取材・文:羽生のり子