黄色いベスト運動から派生した全国討論の結果を受けて、マクロン大統領が4月15日に発表予定だった政策に国立行政学院(ENA)の廃止が含まれていることがメディアに漏れ、その是非を巡るさまざまな議論が噴出している。
ENAはフランスのエリート養成高等教育機関「グランゼコール」の最高峰で、政界トップや高級官僚を輩出する教育機関。縁故主義を廃して高級官僚職へのアクセス民主化のために1945年に創設された。戦後大統領8人のうち4人、首相、大臣もENA出身者が多い。しかし、卒業生の72%は管理職の子で、農家や職人の子は10%、肉体労働者や普通のサラリーマンの子は6%という現状に、実質的にはエリートを再生産する学校という批判を60年代から受け続けてきた。
自らもENA出身のマクロン大統領は、庶民感覚からかけ離れたエリートの象徴であるENAを廃止することによって、黄色いベスト運動や国民の声に応え、かつ民間に門戸を開く柔軟な公務員制度改革という持論を実行に移そうとしているのだろう。だが、伝統あるENAの廃止には反対意見も多く、政治・社会問題と直接関係のないENAをスケープゴートにしているとの批判の声もある。ルメール経済相やバイルー前法相も以前からENA廃止を唱えているが、過去の政権はENA改革の必要性を唱えながらも実行できていない。
ENAには学士号以上の学位を取得した学生を対象とした外部入学試験(2017年の合格者40人/合格率6%)、キャリア4年以上の国家公務員を対象とする内部入学試験(同32人)、公務員でない社会人向けの入学試験(同8人)がある。実地研修と授業1年ずつの約2年間の課程で、卒業時の成績順位によって優秀な学生から国務院、財務監督局、会計監査院、次に財務総局、外務省などに配属される。国が学生一人にかける費用は年間8万ユーロ(普通の大学生は7千ユーロ程度)。授業料が無料な上、学生は平均で月1682ユーロの報酬をもらえる。まさに、国が手厚く高級官僚を養成する学校なのだ。ほとんど現場の経験なく、いきなり高級官僚ポストに就く外部入学の卒業生は、世の中の現状を知らないと批判されるのもうなずける。
ENA廃止後は?他のグランゼコール系学校との合併、あるいは現場や外国での研修制度や民間への門戸を広げる新たな学校の創設などがメディアでは取り沙汰されている。省庁の幹部候補生の約7割をENA出身者が占めるのは確かに問題がある。機会均等と広く人材を求めるために大幅な改革が必要だろう。(し)