Bortsch
ぼくらの町にポーランド料理の店があって、手ごろな値段の昼メニューのアントレに、鮮やかな赤紫色をしたボルシチが出てくることが多い。肉は申しわけ程度にしか入っていなくて、どちらかというとビーツ、ニンジン、キャベツなどの野菜のスープ。このボルシチ、東欧からロシア、ウクライナにかけての家庭料理で、時間はちょっとかかるけれど作り方は簡単そのもの。この真っ赤なスープで家族や友人たちをびっくりさせたいものだ。
肉は、ポトフに使う牛の肩肉 macreuseやスネ肉gîte、 ビーツは、すでにゆで上げられたものを買ってきてもいいけれど、今が旬の生ビーツを使えば、ひと味違うおいしさになる。キャベツは、日本人になじみの白キャベツを使う。
洗った肉の塊をココット鍋に入れ、水を4リットル注ぐ。肉屋が骨を1本つけてくれたなら、それも忘れずに加える。強火にかけ、沸騰してきたら丹念にアクをとる。ローリエの葉、結わえたパセリ数本、塩大さじ1杯弱を加え、コショウもひき入れ、ふたをして弱火で煮込んでいく。2時間ちょっとたって肉が柔らかくなったらローリエとパセリをとりのぞき肉をとり出し、小さめに切り分ける。
玉ネギは、4つに切り分けてから薄切り、キャベツは、4分の1玉を使うのだが、ざくざくっとせん切り、ニンジンは1センチくらいの厚さに輪切り、トマトは湯むきして種の部分をのぞいてきざむ。ビーツはきざんだり、粗めにおろしてボウルにとり、きれいに発色するようにレモンのしぼり汁(あるいはビネガー)大さじ1杯、それに砂糖大さじ1杯と混ぜ合わせておく。
ブイヨン(煮汁)に肉と野菜すべてを加えて、もう30分ほど火を通す。塩味を調えたら、ボルシチの風味に欠かせないディル(aneth)の葉を多めにきざんで振り入れて、即座に食卓へ。各人のスープ皿に盛りつけ、サワークリームを大さじ1杯ほどそっとのせれば、大陸風味のボルシチのでき上がりだ!(真)
4~6人分:牛のすね肉600g、ビーツ1個、白キャベツ1/4玉、ニンジン2本、玉ネギ2個、トマト1個、ローリエの葉2枚、パセリ適量、ディル適量、サワークリーム(crème fraîche épaisseにレモン汁を加える。右欄参照)、レモン、砂糖、塩、コショウ。
Bortsch
檀一雄の『美味放浪記』に「ボルシチに流浪の青春時代を想う」という章があり、終戦直後、満州のロシア人家庭の台所に「間借り」していた時に遭遇した、その一家のボルシチの豪快な作り方が書かれている。ボルシチには、家庭それぞれの作り方があり、牛肉のかわりに豚肉や羊肉が入ったり、野菜もジャガイモやインゲン豆、キノコが入ったりする。ジャガイモを入れるなら、皮をむいて大きめのさいの目に切り、ボルシチが煮上がる20分前に加える。
Betterave
赤いビーツは甘みがあり、その土くさい味わいがうれしい。フランス人は、ゆでたものをさいの目に切ってサラダにすることが多く、八百屋でゆでられたものが年中手に入る。寒くなると、何個かゆわえられた生の赤ビーツが店頭に出る。小さめで、皮が乾いてなく、葉がみずみずしいものを選びたい。若い葉はサラダに入れるといい。皮をむいてから八つくらいに切り分け、塩、コショウ、オリーブ油、バルサミコ酢などを振りかけ、ホイルに包んでオーブンで焼くと文句なし(722号)。
Crème aigre
ボルシチやブリニ、グラッシュにはサワークリームを添えたい。乳脂肪分30%の生クリームにレモンのしぼり汁を加えて混ぜ合わせ、しばらくおいておくだけだ。生クリームとレモンの割合は、生クリーム200ccに対してレモン半個くらい。
Radis green meat
20センチ前後の青大根、煮たりするともったりとした食感になってうまくない。大根おろしや漬け物など、生で味わいたい。