マクロン大統領は2月17日、マリ駐留の仏軍を全面撤退すると発表した。現在のマリ情勢下では作戦続行の条件が不十分とし、今後は近隣国や欧州諸国とともにサヘル地域での共同軍事活動に参加するとした。
フランスは2013年1月、イスラム過激派組織による首都バマコへの侵攻を防ぐためにマリ派兵を決め、現地住民から歓迎された。その脅威が周辺国にも拡大した翌年にサヘル地域での過激派掃討「バルカン作戦」を開始。マリを中心にチャド、ニジェールにも基地を設け最終的に5100人を駐留させた。しかし、サヘル5G諸国(モーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド)の軍隊の整備・訓練はうまく進展しなかった。民族問題、兵士の汚職、過激派組織の社会への浸透など各国・地域で事情が異なるため、仏軍のテロ掃討作戦には当初から限界があったとある専門家は言う。仏大統領は昨年6月、バルカン作戦を漸次縮小し、将来は仏軍を中心とする欧州・サヘル諸国軍による「タクバ作戦」に移行することを決定。しかし、20年のクーデターで発足したマリ軍事政権は今年1月に民政移管を大幅に延期し仏・EUから痛烈な批判を浴び、タクバ作戦のデンマーク軍を撤退させ、在マリ仏大使を追放した。
こうした緊迫した状況下で仏軍駐留の継続は難しいと判断した仏大統領は、4~6ヵ月以内にマリ国内の残り2基地を閉鎖し、サヘル駐留の4500人を2500~3000人に減らしてタクバ軍とともにニジェールなどの基地に移転すると決定。国連マリ統合安定化ミッション(1万3千人)は当面マリに残るが、攻撃の対象になっており先行きは不安定だ。マリ政権は18日、仏が両国の合意を一方的に破棄したとして仏軍(マリ駐留2400人)とタクバ軍の即刻撤退を要求した。
マリ国内では長期の駐留で成果の上がらない仏軍の作戦に疑問を抱く声や、植民地主義の延長として仏軍撤退を求める市民の動きがある一方、仏軍不在のマリの治安悪化を心配する声もある。
マクロンは「失敗」という言葉を拒否しているが、それ以外の形容があるだろうか。作戦の裏には、在マリの仏人や仏企業の利益と安全を保障することや、現在ロシア民間軍事会社の約900人のマリ在留が懸念されているように、サヘルへの仏の政治的・経済的影響力を維持する目的もあっただろう。米軍のアフガン撤退で、民主主義の名の下に欧米のやり方を押しつけるのは無理があることが明らかになったように、独立から60年経った今、時代は変わりつつあるのだろう。(し)