『Lou et l’île aux sirènes - 夜明け告げるルーのうた』
世の中には「好き」とか「愛してる」なんて言葉を、事もなげに言える人もいるらしい。でも大事な人に愛の言葉を伝えるのは、なんて難しいことだろう。そんなことを思ったことのある人にぜひ見てほしい。 アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞を獲得した話題作だ。
地方の港町。中学二年生のカイは両親が離婚して以来、周囲に心を閉ざしたまま。パソコンで音楽を作ることが唯一の気晴らしだ。彼がネット上にアップした曲を聞いた同級生らは、「一緒にバンドを組もう」と執拗に誘ってくる。気が進まぬまま、カイはバンドに加わった。練習場所は巨大な岩山を持つ島。そこで彼らはエメラルドグリーンの髪、クリクリの瞳を持つ子供の人魚ルーに出会う。彼女は音楽が流れてくれば、足が生え、踊り出す。性格も素直で愛らしい。複雑さを抱えた人間と違い、「好き」なものは「好き」と大声で言えてしまう。そんな無垢な魂を前に、カイのかたくなな心も溶かされる。だが新しい友だちができたのも束の間、大人はルーを観光に利用しようと画策。人魚との友情に暗雲が立ち込める。
〈地方都市・家庭が複雑な中学生・神秘な力〉。『君の名は。』や『ひるね姫』にも入っていたこの三要素は、最近のジャパニメーションの傾向だろうか。しかし本作の映像表現は群を抜く個性。大胆なキャラクターデザイン、幻想的でサイケな色彩、独自の遠近感覚……。CG頼りのアニメが増えるなか、70年代のテレビアニメを思わす懐かしさもいい。主題歌である斉藤和義の名曲「歌うたいのバラッド」は、不思議なくらい作品のテーマを代弁する。脇役である、もと犬だったの人魚のさりげない活躍ぶりには涙腺が崩壊した。注目の鬼才・湯浅政明監督作品。(瑞)