「味噌は世界一の完全食品」ヨアン・ベデスさん
日本の国花や国鳥は知っていたけれど、「国菌」は知らなかった。麹(こうじ)菌。2006年に日本醸造学会で認定されたそうだ。麹なしの日本の食など想像できないし、健胃薬や消化薬に配合されるというから国菌扱いも当然かもしれない。
フランスでは日刊紙リベラシオンが、今年注目されるのは「亜酸化窒素ガスボンベを使ったエスプーマ料理」でも「野菜シャルキュトリー」でもなく「koji 麹」だと報じた。日本の国菌はブレーク間近、なのか?
ヨアン・べデスさんは麹菌を大阪の業者から輸入、種麹を蒸米や蒸麦に散布し培養させて麹と味噌をつくっている。フランス南西部オード県で「Yoromiso 養老味噌」ブランドを立ち上げ、先月、ネット販売を始めた。まずは米麹と大麦麹、白味噌、味噌作りキット。ほかにも蔵では麹味噌、麦味噌などが熟成中で、来年発売予定だ。
ベデスさんは、以前は薬草イラクサやラムソンなどを加工・販売していた。「世界一の完全食品」味噌は常食していたので、15年くらい前から自分で〈イラクサ味噌〉のような薬草味噌を作ってみたいと思っていたが、味噌作りの情報が得らず、2013年にようやくネットを見ながら独学で開始。そして「日本語はできませんが 〈麹〉とか〈味噌〉などキーワードを日本語でコピペして検索を続けた末、120軒の味噌蔵に研修したいとメールを送りました」。
12軒、それも名古屋の八丁味噌、径山寺(きんざんじ)味噌で有名な和歌山県湯浅などの蔵元から返信があり、ベデスさんは麹行脚に出る。「それから、どんどん扉が開き、アドバイスをくれたり、助けてくれる人も出てきました」。
「黒い山」と呼ばれる標高1200メートルの山の中腹に位置するコドブロンド村。人口180人の村の周辺には栗林が広がり、小川が流れる。昨年ここに、厚い石壁によって、室温が年間通じて20度程度に保たれる、味噌蔵に理想的な建物を見つけ、改修を始めた。
フランスで良質の大豆や米など原料を調達するルートを築くのは大変だった。味噌の製法は日本で習ったとおり。でも「自分の蔵では、発酵を長くしたほうがいいことに気がつきました。例えば日本だと麦味噌の熟成は6カ月ですが、それを8カ月にしたほうがさらにおいしい。熟成味噌だと日本ではたいてい12カ月ですが、4カ月間余計に熟成させることにしました」。とはいえ湿度、気温などによって味噌の反応は違うから「麹や味噌の声を常に聞いている」。日本でも地方や蔵、杜氏によってそれぞれ味が違うように、ここの風土、原料とベデスさんの仕事と味覚が反映された味が作られている。
日本の知り合いや、初期クライアントには好評だ。フランスで味噌を作りたい人たちも麹を買うという。蔵の改修が終わったら、麹や味噌作りのアトリエを開きたい。そして、「今はスタンダードな麹と味噌だけだけれど、いつの日か〈イラクサ径山寺味噌〉を作ってみたい」。どんな味なのだろう。(六)