
ユニクロ × ジブリのコラボTシャツ販売記念のトークイベント
去る7月4日、パリでスタジオジブリとユニクロの共同イベントが催された。両社は2022年からコラボを開始し、今回で3度目。ジブリの8作品から生まれた限定の全14モデルを、ユニクロのTシャツライン「UT」コレクションとして販売する。これを記念し、7月4日から6日までTime Out 誌が〈世界で最も美しい映画館〉の第1位に選ぶパリ2区の映画館 Le Grand Rex(ル・グラン・レックス)で、ジブリの代表作15作品を3日間一挙上映した。初日には映画『レッドタートル ある島の物語』の上映前にトークイベントがあり、両社のコラボや制作を巡る貴重な裏話が披露された。
トーク第一部は、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーとファーストリテイリング社の柳井康治取締役が登壇。まずは柳井氏から、コラボのきっかけについて説明があった。「カンヤダさんというお友達の存在が大きかったと思います。カンヤダさんを交えたコラボレーションができるといいよねという話で、すごく盛り上がったのを覚えています」。
鈴木プロデューサーは2013年にタイ人女性のカンヤダ・プラテンさんと出会い、親密な関係を築き、以後ジブリの仕事も多く任せてきたのは周知のところ。2018年には彼女をモデルにしたノンフィクション小説『南の国のカンヤダ』(小学館)も出版した。柳井氏はこの本を読んで、鈴木氏との会談に臨んでいた。「驚いたのは、話の内容はカンヤダのことばっかりだったんです。さあここからジブリの話をするのかと思ったら、柳井さんは立ち上がって『じゃあ、帰ります』って帰っちゃったんですよ」と鈴木氏。
当の柳井氏は、3時間の会談中、携帯が鳴りっぱなしだったが、「絶対に携帯は見ないっていう風に決めていた」という。鈴木氏によると、ビジネスで大事なのは、「自分という存在を相手に印象をづけること」であり、その意味で柳井氏の作戦は功を奏したのだと分析する。「カンヤダの縁でTシャツができた時、嬉しいというよりも、『してやられた』と。僕はやっぱり柳井さんの手のひらで踊ったんだな」と、ふり返った。

現在パリの地下鉄などでは、「UT」コレクションの広告が大々的に展開されているが、カンヤダさんが手がけたTシャツのデザインは、キャンペーンでもメインで取り上げられている。このデザインの中心には、鈴木氏がモデルと言われる『君たちはどう生きるか』の「アオサギ」の横顔が。そして、このイラストは、もともとはカンヤダさんが鈴木氏に誕生日に描いて贈ったプレゼントであり、鈴木氏の家に飾られていたものだったという。以前から、ことあるごとに「仕事は公私混同がいい」と公言してきた確信犯の鈴木氏らしいキャンペーンなのだろう。会場には楽しそうに語る鈴木氏を見守るカンヤダさんの姿もあった。
トーク第二部では、鈴木プロデューサーの隣にマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が登場し、当然ながら『レッドタートル ある島の物語』の話題となった。
鈴木氏によると “へそ曲がり”である宮崎駿監督は、当初、「『レッドタートル』は見ないでいい」などと言っていたが、後から気になったようで、編集室で内緒で鑑賞した。その後、鈴木氏のところにやって来て、本作のアニメーターの素晴らしい力量に感嘆し、自身も同じスタッフを使いたいと訴えたほど。この時の宮崎監督の感動は、次に続く『君たちはどう生きるか』の制作への原動力に繋がったのだという。壇上ではその時のことを思い出した鈴木氏が、デュドク・ドゥ・ヴィット監督に、あらためてお礼を伝えるひとコマもあった。

さらに、鈴木氏からはデュドク・ドゥ・ヴィット監督への映画化の素敵な提案も飛び出した。「思いつきですが、『大鴉(おおがらす)』という作品が気になっているんです。恋人に振られてショックを受けていた青年のところに、カラスがやって来るというエドガー・アラン・ポーの“物語詩”です」。すかさず監督も、「後で話しましょう!」と、すぐに乗り気な様子を見せていた。
さて、数年後に再びデュドク・ドゥ・ヴィット監督と手を組み、ジブリ版の『大鴉』が誕生するのか、大いに期待したいところだ。ちなみにデュドク・ドゥ・ヴィット監督の好きなジブリ作品は『火垂るの墓』と『千と千尋の神隠し』であった。(瑞)
★『La Tortue rouge』レッドタートル・ある島の物語については2016年8月のこちらの記事をお読みください。

★ユニクロのTシャツライン「UT」コレクション

大人用と子供用のTシャツやスウェットを用意。全部で21柄。『君たちはどう生きるか』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『ハウルの動く城』『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『かぐや姫の物語』『平成狸合戦ぽんぽこ』の8作品に加え、カンヌ映画祭でポスターにして配られた絵柄『Tout
Ghibli!(ぜんぶジブリ)』も。ジブリのキャラが集合したデザインで、中心には宮崎駿監督がモデルと言われる『紅の豚』の主人公ポルコがいる。今回のTシャツコレクションは日本での発売予定はなく、オンラインやパリやロンドンなどのユニクロで購入可能だ。
www.uniqlo.com/fr/fr/special-feature/ghibli-collection
☞UNIQLOマレ店とオペラ店でのみ限定販売の商品も!

ドゥ・ヴィット監督は、胸に『レッドタートル』の赤い亀がプリントされたTシャツ、鈴木プロデューサーは、同作品のテーマともいえる「どこから来たのか?どこへ行くのか いのちは?」と日本語で書かれたTシャツを着て、壇上でお披露目。こちらの2品は、マレ店、オペラ店でのみ販売。
