日本酒とワインの共通点を聞かれた何と答えますか?
醸造酒であること、食事をしながら飲むアルコール飲料であること、産地のテロワールにこだわること。
では相違点は?
原料が米かブドウか、温めて飲むことができるかできないか、ほぼ日本国内でしか造られていないか世界各地で造られているか。
著者ニコラ・ボーメール氏は、コルマール出身の地理学者。パリ第4大学で日本酒をテーマにした論文を提出して博士号を取った後、今は名古屋大学に勤めています。著者は、日本酒を日本のアイデンティティに根差したアルコール飲料だと言います。米を原料とする発酵飲料が東アジア全体では廃れた中で日本では多く飲まれていること、神道や祭り・結婚式といった風習に欠かせないという文化的側面をもっていること、外から見ると日本という土地と強く結びついていること。なるほど日本では「酒」と言えばアルコール飲料全般を指すほどに暮らしに根づいています。そして地理学者らしく、有力な酒産地が古代以来一貫して近畿地方であることも示しています。さらに近畿地方の中では江戸時代になると重要な消費地が京都から江戸へ移ったために、江戸へ向かう荷の積出港である大坂に便利な立地にある灘が台頭して今日までその地位を保っているも証明しています。
もっとも著者は、近年の日本酒再生がワイン文化に親しんだ人たちにより牽引されていること、そして日本酒もワインもグローバリゼーションの過程で均質化という問題に直面していることも忘れてはいません。酒に醸造アルコールを添加しない「純米」の重要性を訴えているところも、彼自身ワインに親しむフランス人として面目躍如な点です。
内容もさることながら、製本は原著よりはるかに良く、カバー、見返し、扉の手ざわりをぜひ楽しんでください。(文・寺尾 仁)
『酒 日本独特なもの』晃洋書房、2022
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