サン・シル・ラポピー、詩人たちが暮らす里。
フランス南西部に位置するロット県には、「フランスの最も美しい村」のラベルを持つ村が8ヵ所もある。特に、県名の由来ともなっているロット川の流域「ロット渓谷」は、雄大な自然のなかに築かれた中世の村落や城が多く、風光明媚なことで有名だ。
今回はその筆頭、サン・シル・ラポピーへ行ってみよう。県の中心都市カオールから渓谷を東に30kmほど走ると、きり立つ岸壁と、その上に築かれた村が現れる。このサン・シル・ラポピー村は、シュルレアリスム運動の提唱者で詩人・文学者のアンドレ・ブルトンが愛したことでも知られている。岸壁の上に建てられた古い館を気に入ったブルトンはその館を買い、それから毎夏、この村へやってきた。
その場所が昨春、「ブルトンの家」として一般に公開されるようになった。訪ねてみると、野心的な展覧会やイベントを企画する若い学芸員のもとに、芸術家魂をもったさまざまな人が集まってきて、運営に携わりながら自分の才能を花開かせる、そんな「家」になっているようだった。詩人が魂を揺さぶられた環境に自ら身を置いて、詩を詠んだり、音楽を奏でたり、自然のなかで考えたりするような、のびのびと自由な空気が漂っている。幸せな詩人たちが暮らす村を、歩いてみよう。(六)
「ロット渓谷の真珠」 サン・シル・ラポピー
「ロット渓谷の真珠」と称される中世の村サン・シル・ラポピーは、その賛辞を裏切らない。深緑の山肌から顔を出す高さ100メートルの断崖絶壁の上に、小さな村が悠然と腰を落ち着けている。そこからは、蛇行して流れるロット川、自然と人が造り上げた見事な景観が眺められる。保護すべき地質遺産に与えられる 〈ユネスコ世界ジオパーク〉に認定された 「コース・デュ・ケルシー地方自然公園」内のこの村は、佇まいそのものが幻想的な芸術品のようで、シュルレアリスムの提唱者が一目惚れしたのもよくわかる。
村の入口の堂々たる石門を抜けると、 13~16世紀に建てられたという赤褐色の屋根の家々がひしめいている。面積は18㎢と小さいが、 荘厳な要塞や城跡、教会ほか13の歴史的建造物が遺され、可愛らしい童話の国というよりは、岩肌の荒々しさも相まって、自然の神々しさや積み重なる歴史の深みを感じさせる。村の人口はこの40年余り、200人前後と変わらないが(年間通して住む人は15人のみ)、 ギャラリーや木工や陶器の工房やショップが軒を連ね、観光地として大人気だ。また、中世から現在に至るまで、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼者も多く訪れる。
ラポピーの岩山 (Rocher Lapopie)
村と渓谷を一望できる岩山の無料展望台。まずはここからのパノラマを楽しもう。諸説あるが、村名 「ラポピー」はオック語で 「(牛などの)乳房」を意味する 「ポパ」に由来。高くそびえる乳房のような岩山 「ラポピー」の上に城と砦を築いた一族は、「ラポピー家」を名乗るようになったとか。その城の下にもこの地域を支配していた家が城を構えたが、もういずれの城も姿は残っていない。
サン・シル=サント・ジュリエット教会
(Église Saint-Cirq-et-Sainte-Juliette)
村のランドマークであるゴシック様式の教会。12世紀に礼拝堂が建ち、16世紀に再建された。赤いとんがり屋根や四角い鐘楼を持ち、円形の礼拝堂はロマネスク様式。キリスト教史上最年少(3歳)の殉教者サン・シルと、その母サント・ジュリエットに捧げられている。ファサードには日時計が見える。
曳舟道 (Le Chemin de Halage)
石灰岩の崖を削って造られた、荷を積んだ舟を人間や馬が牽引して歩くための曳舟道。1845年にサン・シル・ラポピーと隣町のブジエ間が開通した。一部、壁面にはトゥールーズの芸術家ダニエル・モニエによるレリーフも見られる。曳舟道を散歩するには、カオールからバスか観光船でブジエBouzièsまで行くと便利。ブジエからサン・シル・ラポピーまでは約4キロ、曳舟道を歩くなら約1時間。
取材・文 林瑞絵、編集部
パリからの行き方
パリ・モンパルナス駅およびパリ・オーステルリッツ駅からカオール駅まで約5時間半。CahorsからFigeac行きの889番のバスでBouzièsかTour-de-Faure(サン・シル・ラポピーまで徒歩30分)で下車。
Bouzièsからは曳舟道(本ページの記事参照)を歩いてサン・シル・ラポピーまで1時間)。7、8月のみ878番がSNCFカオール駅からサン・シル・ラポピーの町を結ぶ。所要時間50分ほど。
・電車 フランス国鉄SNCF 電車時刻と予約
・長距離バス BlaBla Bus 長距離バス時刻と予約
(体力がある人には、パリ発23h55 – カオール着07h30の夜行バスが安くておすすめ)
サン・シル・ラポピー観光局
Place Sombral 46330 Saint-Cirq Lapopie
Tel. : 05. 6531.3131
www.cahorsvalleedulot.com
ホテル
Auberge du Sombral (Saint-Cirq-Lapopie中心):
ラポピー城のふもとにある家族経営のホテル・レストラン。坂の上の眺めの良いテラスで、ブルトンは白ワインを好んで飲んでいたという。レストラン「Les Bonnes Choses」は、この地域の名高い子羊、鴨、チーズなど、その名のとおり「うまいもの」が食べられるの。レストランも行楽シーズンは予約がベター。一泊75€〜。
Place Sombral 46330 Saint-Cirq-Lapopie
Tél : 05.6531.2608
https://aubergelesombral.wordpress.com
Hôtel-Spa le Saint-Cirq (Tour-de-Faure) :
ロット川の対岸トゥール・ド・フォール村のスパホテル。ここもケルシー自然公園2010年にワイン醸造家のエリック・ヴィヴァンさんが造り、少しずつ増築を続けてきたホテルで、ぶどう畑のほかにも、トリュフ畑、果樹園、羊などの動物がいる。サン・シル・ラポピーの絶景と葡萄畑に囲まれた部屋が人気で歴代大統領も滞在。ホテルの敷地は村落のようになっていて、そこに建物がいくつもある。
プールは屋内と屋外にふたつ。2025年には既存のレストランに加え、大きなレストランも新設予定。現在も少しずつ新しい家が造られている(一泊96€〜)。
175 rue du Panorama
46330 Tour-de-Faure
Tél : 05.6530.3030
www.hotel-lesaintcirq.com
レストラン
Le Cantou (St-Cirq Lapopie内):
サン・シルの村でも比較的下のほうにあるレストラン。カジュアルな雰囲気ながら、グリーンピースのガスパッチョ、鴨肉のタイ風スープとビーフンなど、地元の野菜と食材で新しい料理を提供。ベジタリアン料理では焼きナスのゴマだれがけも、魚ではヒメジの南蛮漬けもおいしかった。テラスがふたつある。
Le Cantou:
Rue de la Pelissaria
46330 Saint-Cirq-Lapopie
Tél:05.6535.5903
https://fr-fr.facebook.com/people/Saint-cirq-lapopie-Restaurant-Le-Cantou-/100058506284567/
La Truite Dorée(St Géry-Vers):
ブルトンも訪れていた、1888年創業、5世代続く歴史的ホテル・レストラン「黄金のマス」。カオールからラポピーヘ伸びる県道653号沿いの村(St Géry-Vers)の、ロット川のほとりの店でマス料理が自慢。家族で食事をたのしむ家族連れの姿が多かった。「国境のなき道」の標識も置かれた場所の一つで、店内にはブルトンの写真も飾られている。野獣派として知られるアンドレ・ドランもこの村を描いた絵が数作品ある。ランチ26.50€/39€。
Rue de la Barre 46090 St Géry-Vers
Tél : 05.6531.4151 www.latruitedoree.fr
月日休。火~土 12h–13:30(閉店15h30)/ 19h
15–20:30(閉店23h)
クルーズ
遊覧船で、ロット川からサン・シル・ラポピーを見るのはまた別の趣!
★ 隣町の Bouziès(ブジエス)発着クルーズ :
La Croisière 7 MERVEILLES
一番ベーシックなもので、70分間。
10/20までは毎15h15分に出発(週末ほか人が多い日には増便されるのでネットの予定表でチェック)。
大人15€ / 3〜12歳:10€ / 0〜2歳無料。
www.croisieres-saint-cirq-lapopie.com
Bouzièsまでは、SNCFカオール駅から889番のバスでアクセス可。所要時間は50分ほど。
★ 夏期はカオールからの昼食付きクルーズが出る。
《近日掲載!おたのしみに》
サン・シル・ラポピー②
アンドレ・ブルトンの家 ー シュルレアリスムを今に生きる運動に。
サン・シル・ラポピー③
サン・シル・ラポピー観光の足場 ー 通いたいところがいっぱいの、カオールの町。