国民の購買力保護法案が国民議会、上院、そして両院協議を経て、両院それぞれで可決され、最終的に成立した。インフレに対応する各種支援措置についての法案は3日に、措置を可能にする今年度修正予算案も4日に成立した。
2つの法案の主な内容は、以下の通り。
・マクロン・ボーナス(購買力手当)が3倍に
雇用主が社員に支給するボーナスのうち、社会保険料免除および、法定最低賃金(SMIC)の3倍以下の給与の被雇用者については所得税免税の対象となる金額が、現行では1000€だったが、今後は3000€まで引き上げられる(障害者雇用者など特例は6000€まで)。23年末まで。社会保険料免除は24年末まで。
・生活保護給付と年金を4%増
就労連帯手当(RSA)、低収入者手当(prime d’activité)、成人障害者手当(AAH)、高齢者連帯手当といった生活保護および、家族手当、奨学金を7月にさかのぼって4%増。生活保護受給世帯には9月に特別インフレ手当100€+子ども1人につき50€を支給)。年金、障害者年金も4%増。
・電気とガス料金の凍結、年末まで延長
さらに、燃料油による暖房器具を使う低所得世帯に援助金。「エネルギー主権」を守り、原発への投資を確保するため国が仏電力会社(EDF)の株16%を購入(97億€)し100%国営に。電気供給の危機の際は、温室効果ガスの排出上限を一時的に引き上げる(石炭発電所などが操業可能に)。雇用者が被雇用者に支給する燃料費援助金を年200€から400€へ増額。
・ガソリン、軽油小売価格抑止のための政府支援
政府が4月から実施している1ℓあたり18セントの支援を9~10月には30セントに引き上げ、11、12月は10セントに。政府は支援を低所得者や燃料を多く消費する人に絞る意向だったが、共和党の要望を取り入れ、対象制限を放棄した。
・家賃上昇率は来年6月まで3.5%までに制限
中小企業の事業用不動産の賃貸料も同様。個別住宅手当(APL)は7月にさかのぼって3.5%引上げ。
・公務員給与引き上げ、残業手当の非課税化、RTTの現金化
2017年以来凍結されている公務員給与を3.5%引き上げ。年間7500€(現行5000€)まで残業手当は課税なし。2025年末まで所得税免除、社会保険料免除で超過労働時間代休(RTT)の現金化。20~250人の企業では、残業手当にかかる社会保険料の雇用者負担を1時間当たり50セント削減。
・テレビ視聴料の廃止
視聴料は秋から廃止し、付加価値税で補填する。
・低収入の自由業者の社会保険料を減らす
とくに国民議会では、左派は低所得者層に対する政府の支援策が不十分として激しい議論が繰り広げられた。左派連合Nupesは、支給が雇用者の恣意に任されるマクロン・ボーナスの非課税化よりもSMICを引き上げるべきであり、生活保護の引上げはインフレ率の6.8%にするべきと主張した。しかし、与党連合は、残業手当の非課税化、RTTの現金化など雇用主や管理職らに有利な共和党の修正案を取り入れて法案可決に漕ぎつけた。Nupesは週労働35時間制を骨抜きにするものとしてRTT現金化に反対しているほか、視聴料廃止は国営放送の運営を危うくするとして憲法評議会に5日に提訴。社会党を除くNupesは温室効果ガス排出規制の緩和は化石燃料使用を促すとして、同じく提訴した。
左派と極右の国民連合(RN)は、今年第2四半期で55億€の純益を計上したトタル・エネルジー社などエネルギー危機のおかげで莫大な利益を上げる大企業への特別課税を要求したが、否決された。こうしたエネルギー過剰利益税は北海の石油開発企業の利益に一時的に25%追加課税する英国をはじめとして、スペイン、イタリアでもすでに導入されている。(し)