マクロン大統領は3月30日、訪問先のオート・アルプ県で、夏に向けた水不足対策「水計画」を発表した。
これは、昨年の干ばつ・水不足を受けて、エコロジー移行省が策定した53の措置の概要を大統領が発表したもの。「水は国にとって戦略的課題になった」とし、水節約の緊急性を強調した。利用可能な水はこの20年で、それ以前に比べて14%減少し、2050年までにさらに30~40%減少すると予想される。
昨年夏は700市町村で飲み水が不足し、うち500市町村でタンクローリーによる水の配給やミネラル水ボトル配布が行われた。大統領はエネルギー、製造業、観光、娯楽、農業などあらゆる分野で水の消費を2030年までに10%減らすことを目標に掲げたが、そのための主な対策は以下の通り。
● 使用済みの水の再使用を2030年に10%に
再処理された使用済みの水の再使用の割合は現在1%。水質基準を一部緩和して再処理水や雨水を農地や公園への水やり、道路洗浄などに使うといった処理水の再利用プロジェクト1000件を5年以内に策定する。
● 水道料金を使用量に応じて段階的に設定する
水の使用量のある一定量までは安い値段、それ以上は高くして、水の使用量の抑制を促し、同システムを全国に普及させる。仏紙の報道では、すでに約10市で実施されており、モンペリエでは1世帯の生活に最低限必要とされる15㎥までは無料、それ以上は有料になり、240㎥以上だと1㎥あたり2.7€になる。使用量に応じて段階的に料金が設定されるシステムを採用するダンケルク市は全国平均より水道の水使用量が16%低いという。
● 原発の水使用を抑えるための設備投資
原発の水使用はフランスの全水使用の12%に上る。マクロン大統領は、気候変動に原発を対応させるため、使用済みの冷却水をそのまま川や海に放出するのではなく、その温度を原発内で下げて冷却水として再利用する循環方式に切り替える(川や海からの取水を節約できる)ために必要な設備に投資するとした。
● 水道管漏れの修理に年間1億8000万€
フランスでは老朽化した水道管からの漏水により、約20%の水が失われている。まずは2024年から、50%以上の漏水(170ヵ所)のある市町村に国が援助して整備。その財源となる公的機関「水機構」の予算を年間4億7500万€引き上げる(現在22億€)。
● 「水のエコワット」で水需給のひっ迫状態を国民に知らせる
昨年秋に電力不足が懸念された際に、電力需給のひっ迫状況が見られるウェブサイトやアプリ「EcoWatt」が実施されたが、これの水版を作成する。水の需給状況が一目でわかることで、個人や企業、農業従事者らが自ら節水を行うよう促すのが目的。
● 取水メーターの設置
地下水・川など自然からの取水量が多い10の地方では、データの自動転送が可能な取水メーターの設置を義務化する措置を来年から実験的に導入する。とくに農業用取水の実態を把握するため。この措置は2027年までに全国に普及させる予定。
● 気候変動に対応した農業へ
水全体の58%を消費する農業部門についてマクロン大統領は「気候変動に対応した農業のあり方を探るべき」と発言。また、水や肥料を必要に応じて供給する点滴灌漑*装置など水使用のインテリジェントシステムを装備する農家への支援金として計3000万€を充てる。
サント・ソリーヌで農業灌漑のために建設中の大規模貯水池に反対する環境保護派と治安部隊の激しい衝突が最近起き、問題になった。こうした農業用貯水池について、マクロン大統領は食料の安全確保のためにも必要としながらも、今後、貯水池は水の節約を考慮するべきという見解を示した。
小規模農家の団体は、「水の節約をテクノロジー面だけに要約するべきではない」と反発し、生垣や野原の必要性、干ばつに強い作物への切り替えなどを提案したいとした。農業の現場では様々な試みが行われているようだが、政府がやっと重い腰を上げて水節約を火急の問題と認識し対策を発表したことは一歩前進したといえるだろう。(し)
*点滴灌漑:農地にはりめぐらせたチューブから、適切なタイミングで水と養液を少量ずつ作物に与えること。