
今月開幕するカンヌ映画祭は、フランス映画『Partir un jour いつか旅立つ』が開幕作品。5月13日夜には開会セレモニーの中継付きで劇場公開されるので、映画祭気分も味わって鑑賞してほしい。
監督は初長編のアメリー・ボナン。フェミニスト雑誌のアートディレクターとしても活躍する女性監督だ。長編の基になった短編は、2023年にセザール賞の短編賞を受賞。壇上では「女性で40歳で子どもが2人いて白髪があっても、物事の始まりにいると感じられる」とスピーチ。その言葉通り、あらためてカンヌが監督人生出発の晴れ舞台となるのだろう。
短編(アルテ局で5月8日まで無料配信中)と長編の基本設定は似ている。双方ともパリで活躍する主人公が帰省する話で、若い時の恋心が再燃する。面白いのは短編の主人公は作家の男性だが、長編の主人公は料理人の女性に変えたこと。女性のドラマにしたのはより現代的。アニー・エルノー的階層越境者であるが、地方出身者であるボナン監督本人の投影でもあるようだ。
短編長編ともバスティアン・ブイヨンとジュリエット・アルマネが出演。ブイヨンは『12日の殺人』『モンテ・クリスト伯』など話題作が続く。一方、新進俳優のアルマネだが、歌手としてはすでに大物で、パリオリンピックではセーヌ川で「イマジン」を熱唱した。
本作はクリストフ・オノレの『愛のうた、パリ』を思わすミュージカル風で、出演者が自分の気持ちを歌に重ねる。監督が青春時代を過ごした90年代の楽曲が多く、タイトル曲『Partir un jour』もボーイズバンド2Be3の名曲のアレンジ。ノスタルジックな余韻が心地よい、大人のためのサンパな青春映画だ。(瑞)
