政府軍とイスラム過激組織の対立が激化した90年代のアルジェリア。武装イスラム集団は市民も標的にテロを繰り返した。本作は「暗黒の十年」と呼ばれた息苦しい時代が背景にある。
ナジマ(リナ・クドリ)は大学寮に住む女子大生。デザイナーを夢見る彼女は「パピチャ(アルジェリアの俗語で “若く可愛い女性”の意)」を美しく引き立てる洋服を作るのが得意。夜間に門を越え、鮮やかな色の服を売りにディスコに出かける。女性が肌や髪を出して装うことがタブー視されるなか、それは危険な行為だ。
テロが日常の風景となる様は異様だが、ごく普通に見える人々の行動も不気味である。若い男は女性の服装を規定するポスターを黙々と壁に貼る。黒いヒジャブ(スカーフ)を身につけた女性は、授業を妨害しようと教室に乗り込み叫ぶ。彼らは他人の自由に口出しする人々だ。
ついにナジマの家族にも危害が及ぶ。だが、彼女は校内でファッションショーを開くという希望は捨てない。それは創作によるレジスタンス運動。観客はナジマの挑戦が無事に実現するよう祈る気持ちで見守ってゆく。
弾圧の時代も輝きを失わぬ若い女性の情熱とエネルギーがまぶしい本作は、カンヌ映画祭「ある視点」部門に出品後、米アカデミー外国語映画賞アルジェリア代表に選ばれた話題作。普段はマグレブ諸国のドラマに食指が動かない日本の配給会社も、早速公開を決めたドラマティックな力作だ。とはいえ、先月のアルジェでの先行上映会は、突然中止となり波紋を呼んだ。国が振り返りたくない暗い過去が掘り起こされたためか、米アカデミー賞出品への妨害作戦か、あるいはその両方か。まだまだ現実も息苦しさは続いているのだろうか。
監督はアルジェリア人ムニア・メドゥール。17歳までアルジェで暮らした後、97年に家族でパリ郊外のパンタン市に移住したという経歴を持つ。驚くほど完成度の高いこの初長編作は、アルジェで青春時代を過ごした女性監督の複雑な祖国愛が投影されている。(瑞)